『望まない形』
住処を出てからというもの、私は無我夢中で彼を探し続けた。
人里に立ち寄っては彼の事を聞いて、答えがあってもなくても そこにいる人々に少しだけ手を貸してはすぐに去る…ということを繰り返していた。
彼が確かめると言っていた世界の様子なんて、欠片もこの目には写らない。
ただただ、彼の足跡だけを辿り続けた。
それからどのくらい経ったのだろう。
長かったかもしれないし、短かったかもしれない。
定かではないが、ようやく彼の居場所を突き止めることが出来た。
急いで彼の元へと向かう。
胸が高鳴る。
それは、ようやく会えるという期待と、ほんの少しの不安によるもの。
でも、きっと大丈夫だと思った。
もし忘れられていても、会えば…
あの日に託された楽器を見せれば、すぐに思い出してくれると。
そう信じていた。
けれど……
現実は、厳しかった。
どうしようもないほどに。
「…兄さん!やっと会えた…!私だよ、×××××!
…えっと、その…ごめんなさい…
待ってるって言ったのに、会いに来ちゃったんだけど……」
「あ、あのね。
ここに来るまで、いろんなヒトに兄さんの事を聞いたんだよ。
それでようやく、兄さんのところに来れたんだ」
「…本当に、会えて嬉しい。元気そうでよかった……」
嬉しくて、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
けれど彼は少しもこちらを見ない。
今も目を閉じたままだ。
…いや、きっと見えてはいるのだろう。
彼も私も、視覚以外の方法を知っているから。
「兄さん…?あの───」
『…帰りなさい』
「……へ?」
『僕は君の事など知らない。きっと人違いだろう……』
「…な……なんで………?忘れないって…
……っ、…そうだ、これ…。
これっ、あの日兄さんから預かった───」
『……いいから。
君は君のいるべき場所へと、帰るんだ』
「…………、……そん、な…………」
全身から力が抜ける。
膝から崩れ落ちそうになるのは、すんでのところで耐えた。
けれど、手に持っていた物を支えることは…できなかった。
一番大切な、彼から託されたモノが、音を立てて地に落ちる。
…拾うことはしなかった。
だって、落としたことにも気付けていないから。
その時の私にあったのは、抱えきれない絶望感だけ。
「………………」
ふらふらと、すぐにでも倒れてしまいそうな足取りで踵を返す。
彼は最後まで、思い出してはくれなかった。
それどころか、追い返されてしまった。
冷たい表情、冷たい言葉で。
「……ごめん、─────」
ゆっくりと立ち去る私の背に、彼が最後にかけた言葉。
その言葉は、終ぞ私の耳に届くことはなかった。
聞こえていれば、あるいは。
私の未来は、もう少し違うモノになっていたのかもしれない。