Eno.15 トト・アズハル・イルファンの日記

トトの手記23

 刻一刻とこの島の沈没の時が迫っている。
 
 慌ただしい雰囲気に飲み込まれそうで、僕はセトと共に岩場で休憩をとることにした。初めて訪れた時に感じた恐怖心は薄れ、太陽の光を反射し煌めく海面を見て美しいと思う余裕さえできた。消えていくこの風景を残して置きたいと思い、数枚、写真に残しておいた。


 そうして姿を消していた僕たちを探していたのは少年……であった。
 何かを渡したいとのことで、この狭くなった島の中を探してまわっていたらしい。贈り物、はて、何であろう?思いつくのはあの夜に空へ贈ったクッキーであろうか?皆で食べると約束していたから誠実な少年はそれを届けにきたのだろうか?
 
 これ、と言ったものが思いつかず少年を見ると、「お礼」と言い、小さな手のひらの上に可愛らしい折り紙が乗せられていた。空曰く、これはお守りだそう。日本国によく見られる形なのだろう。少年らしい愛らしい文字で、わかりやすく「お守り」と書かれている。これを?僕に?この少年は、僕のことを案じてくれているそうで、それがたまらなく嬉しかった。思いの込められたものがどれだけの力を生むのか僕は知っている。我が国で親が子へ愛を込めて贈るランプのような、少年から僕への想いを込められた贈り物なのである。

 そして、僕たちと出会えたことで孤独を忘れ、喜び、幸福を感じてくれていたのだと教えてくれたのだ。何とも嬉しいことであろう。自分の気持ちを素直に伝えると言うのはとても勇気のいることである。
 
 この先、少年から大人へ変わっていく中で、僕たちのことは忘れてしまっても構わない。それでも、その時が来るまでは僕たちを君の友で居させてほしい僕はこの少年のことを忘れない、忘れられるわけがない。愛おしい、小さな友人よ。君の未来に、将来に幸があることを祈っているよ。



 拠点の方に戻ると、カニが何かを起こし、この島に海底遺跡が現れたそうで島民たちは最期の探索へ出かけたようだ。遺跡からの発見物を少し拝見させていただいたが、何ともオカルティックで、持ち帰るには少々面白みのないものであった。セトも遺跡には興味が無いようで、最後の一品というような表情で完成させたラーメン?とカレー?を完成させ満足げにしていた。これも写真に残してやろうと、カバンの中にあるカメラを取り出した時、何やら見覚えのあるものがふわりと地面に落ちた。

 それは、以前オルテンシアが作ったであった。お互い同じ材料で製作していたのに違う形の作品に仕上がったのを覚えている。彼女はとてもセンスが優れている(命名に関しては一概にそうとは言えないが)もで、感心したものだ。でも、僕はこれを受け取った記憶がなかった。きっと、僕が遺跡の物語を拝見している間にでも、悪戯小娘がこっそりと潜ませていたのだろう。
 
 一声かけてくれたらよかったものを、僕だって、君にもきちんと別れを告げたかったというのに。彼女は救難船に乗り故郷を目指すそうだから、もうここで別れるのだ、そうなれば会うことはもう二度と叶わないのだ。オルテンシアは、僕の気のせいでなければさりげなく僕を気遣ってくれていたように思う。今思えば、その心遣いが何とも嬉しいものであった。僕の知識を技術を信じて任せてくれたことも、僕は大変嬉しかったのだ。君がイカダでの冒険から無事生きて戻ってくれたことを、今は、より嬉しく感じるよ。

 本当は直接礼を述べたかったが、粋な彼女に習って、僕からもささやかな贈り物をこっそり潜ませておくことにした。きっと彼女もこれが僕からの選別であると気が付くことであろう。僕たちの別れは、きっとこれで良いのだろう。
あのおしゃべりな口上をもう少しだけ聞きたい、そうも思ってしまうのだが。


 執筆中、夜空に再び花火が上がった。これを打ち上げたのはシシなのだろうか。
 思えば僕は彼にもよく世話になった。彼は勤勉で勤労で、そして少し茶目っ気のあるやつだった。堅物にも見えるのだが、時々不可思議な行動を見せたり、花火大会の夜には羽目を外していた姿をよく覚えている。この島の発展を支えてくれたのは、脱出までの道筋をひいてくれたのは、彼であったと僕は思う。彼の存在は、この不安定で、先の見えない生活にとって、どれだけ有難いものであったか。僕は彼と言葉を交わすのがなかなか愉快で、ふとした会話に楽しみを見出していたということをここに記録しておこう。


 夜は更けていく。白銀の月明かりも何だか寂しげだ。