◇
俺というものが物思いに耽るというのもいささか疑問が浮かぶが、実際に物思いに耽っているのだから、ではそのようにしていることを出力するのが筋なのではないかと思う。
から、たまにする回想というものもどこかに書き連ねるようにして、ぽんぽんと頭の外に置いておこう。
過去を思い出し、それに今の自分がモノを思う。
酷く自分らしくない行為であるが、まあ、行っているのだから、仕方がない。
そこには依然として事実ばかりがあった。
◇
ふ、と目を覚まして起動する。
明日を生きるための呼吸が始まって、どうやら俺は生まれ出たらしい。
しかし、だからと言って自分の意思らしきものがあるわけではない。
体に見合った賢さは所有していたが、言葉を交わし積み立ててきた生き物には、生まれたての生き物は叶うまい。
人の皮を被ったそれは、俺に命じている。
コマンド入力。
戦えと。
宇宙はすっかり争いと戦争に満ち溢れていて、それは壊された星の文化の所有権によるものである。
その抗争の合間で息を抜くように、星の復元も試みられていた。
俺はその研究の成果の一つである。
かつて星に住んでいた人間そのものの復元を。
ただし、ただ復元しただけでは面白くない。
進化を加えてこその研究だと、研究の文化に惚れ込んだマッド・サイエンティストは、より良き人類を開発した。
お砂糖とか素敵なものとか、そういうのを混ぜ込むのではない。
概念、という。
よくわからないモノを混ぜ込んだ。
「俺に混ぜ込まれたのは“笑い”」
「ギャグだったという話だぞ」
研究者たちは楽しんでいたが、同時にその文化に傾倒することをなさらんでいた。
星の研究に全てを注ぎたったが、こんな中では兵器開発の依頼がバンバン飛んできて、ちゃんちゃら話にならないと。
腹立たしく、腹立たしい!
別に争いに巻き込まれない中立空間としてこの星は締結されていたが。
外野のノイズが邪魔をする。
ああ、だったらそれらを終わらせるような生物を作ればいい。
私たちが愛した文化の持ち主たち。
私たちが失わせてしまった文化の源たち。
その形にした生き物が飛躍し、戦闘を掻き乱すのなら。
「滑稽だと」
「悪趣味極まりないが」
──だから、元をギャグの生き物としたのだろう。
可笑しな茶番劇のあらそいだと。
冷笑のもとに。
◇
初めの俺はどんな顔?
たしか、こんな顔だった。
その顔は誰にも見えず、しかし、見えたときは、こう見えていたのだろう。
もちろん自覚があるし、きっとそういう生き物なのだろう。
ただの通りすがり。
面白くて変なことをして。
場をかき乱して、しかし誰だかわからない。
誰でもない。
そういう役割で、生き物だった。
その次の俺はどんな顔?
確か、こんな顔だった。
星を移れば、また違う顔になってたんだろう。
背丈は変わったか?
もちろん自覚があるし、きっとそういう生き物なのだろう。
作り手に言われたことは、戦場の撹乱である。
それは仕事である。
戦場と位置付けられた空白の星。
戦火に降り立てば、アーティファクトを起動させる。
E-A-モーント。
後はいつものように駆けずり回っていた。
変なことをしている。
さらに次の俺はどんな顔?
顔も変われば身体も変わる。
もちろん自覚があるし、きっとそういう生き物なのだろう。
だからといって、性別は男に固定されていた。
星の参照時、製作中に抜き取ったデータはヒューマンの男型だけだ。
その中からランダムに、定まることはなく自分が存在している。
不定形で定まらない。
誰でもなく、変なことをしても誰の印象にも残らない。
そして自分もまた、誰でもないから、自分に興味はなかった。
その次──
さらに次──
変わる。変わる。誰でもなく、通りすがりは覚えられない。
印象に残らないとはそういうことだった。
そのうち、顔も失っていく。
顔が認識できず、背丈は不安定だ。
子供になることはなく、ある一定の男性以上以下の。
誰でもないが深まっていく。
誰に質問しても、名前も、顔もわからないのに、そこにいた人間の出来上がり。
その顔を見たものはいない。
洗練されていく。
最適化されていく。
正しい形に進化をしていく。
彼もまた生き物であるから、他と同じように進歩の道を歩んでいた。
成長曲線斜め上。
仕事はよりよく。
さらによくよく、敵側をかき乱すようになれ。
「命懸けの兵士たちを、愉しむように暴れてやれ」
「戦場には笑いが足りないのだ」
「それが命取りになるから」
「文化は楽しませるモノなのに?」
──初期のことを忘れている?
なら笑ってやれ。
賑やかせ。
パーティの蓋は開いて、中身がまろび出ている。
変にしてやれ。
「いつもいるのにいない、無所属の」
──傭兵はそこで、アーティファクトを変形させた。
白銀の筒は、変形を終えるなり、全体に熱を溜めていく。
ラインに沿って光が浮かぶ。
先頭、熱エネルギーが光り輝いていく。
膨れあがる。膨れあがり。
轟くような唸りをあげて、限界を目指し。
──射出された光線は、大地と生き物を、程よく焼き払う。
今の流れを見て、ああ、なんだったんだと生き残りが呆れている中で。
「支給品のバ=イクーでおさらばだった」
エンジン音すら聞こえない。
いいや、虚無に笑うように響き渡っていた。
息もできない宇宙空間。
人間の皮だけの生き物たちは、息を吸っているようだった。
◇
「……」
リミッター解除。
武装変形。
エネルギー充電。
放出。
引き金を引く。
指に引っかかる突起を握りしめている。
正確に狙いを定めた方向に、サイケ的極太光線を撃ち放つ。
例外なく焼いていく。
例外なくこんがりと。
平等に光は飛んでいく。
地平に焼いた跡が残っている。
「……」
「はは」
それを見ながら笑って見せる。
笑っている。
そういう生き物である。
──楽しい!
楽しい!
楽しい!!!
楽しい!!!!
あの戦争を冷笑した研究者たちの作った生き物である。
根底に嘲笑いがあるのだから、楽しいと笑いの方向も歪んだ出力の仕方をしていた。
誰でもなから誰でもないものが、場違いな面白いをして、荒らすだけ荒らして帰っていく。
それが仕事であり。
それが意義である。
しかし、これには学習があり、成長があり、感情もある。
歪んだ根底から作られた生き物は、引き金を引くのをたのしんでいた。
その研究者たちの復元した人間たちの多くは、戦場に投げつけられている。
それらは載せられた概念の特性を持っていたが、みんな歪んでいた。
余計な不純物なく作ればよかったのだ。
それは取締られ、凍結させられている。
「……」
「命の切った張ったは、割と、楽しい」
「戦場が、俺の意義で、生きるところなんだろ」
「誰からもすり抜けるようにしていられる」
のに、可笑しなことをしている。
そうして、撹乱させて、レーザーを撃ち放ったりする。
その戦争はくだらないものであり、長期化したが故に中弛みをしていた。
が、命懸けなのは正しくその通りである。
自分たちが何で戦っているのかわからないが、召集されて、取り合いをした。
その生き物たちには、大切な生き物がいて。
痛みがあり。
感情があり。
家族がある。
それはかつての人間のようであり、それを生き物の根底として、世界の理として定義している。
真似をしている。
人の皮をかぶっているのもそうだ。
その皮の内面を見せるのは、めったないことだった。
人間であり、生物であり、それがあの星のそれらの生体だった。
「その重みがわからねえんだ」
復元されたとはいえ。
人間のくせな。
その関係を理解できないわけではないが、曖昧な色を書いている。
笑いを提供した上で戦場を引っ掻き回して、取り合いをするのだから、楽しいのだろう。
わからないとしらないは、感覚の中で生きているから、研ぎ澄まされて、鈍っている。
遊んでたわけではない。ただ、仕事をしていた。
仕事が楽しかったという話だよ。
「そういう生き物なんだ」
いいわけではなく、正直な証明としている。
困ったような苦笑を浮かべた様は、いつもと変わらない。
◇
「終わったんだ、戦いは」
始まりがあれば、終わりがある話だった。