Eno.10 戦士の日記

怪魚

勇者たちとの旅の途中。
里帰りする機会を得た。
たった10年、されど10年、あっという間に過ぎた時間。
村はあの日壊滅的な被害を受けたが、
今ではわずかな人数が集まり、細々と暮らす集落になっていた。
村長は俺を見るなり「ばあさんや今日のポンポンリングはまだかいのう……」と
だいぶボケていたが(一昨日食べたらしい。別にドーナツじゃなくてもいいがちゃんと食わせてやれ)
勇者一行を温かく迎え入れてくれた。
昔からアッケシーのカキはいっとううまい。

ただ、近頃になって再び怪魚が現れる兆しがあるという。
普段は海につながる湖底で、眠るように存在しているらしいが。
暗雲立ち込める中、突如として轟く暴風と降りしきる雨の音。
俺たちは湖へと向かった。

海湖の主チライヤサン
アッケシー湖に古くから棲む魔物
60mはある巨大魚


それはまるで出迎えるように、悠々と泳いでいた。
神官が教皇に掛け合って配備してくれた(教皇すごいな)竜砲や竜槍と
湖上では僅かな足場である船があり、なにより付き合ってくれる面々がいる。
因縁を清算する舞台は整った。

うねり、飲み込まんとする水流を破する魔法が飛び交い、
砲が放たれ、鱗の隙間目掛け刃と矢が正確に突き刺さる。
竜巻をも乗りこなす、破竹の勢いで勇者たちは怪物の体力を削っていく。
あんなにも脅威だった怪物が、全てを破壊せんと見えた暴威の化身が
その命の尾を槍の切っ先で捉えられるところまで来ている。
こいつも、生きているのだ。

「うおおおおおおッ!!!!!!」


構え、高く、高く飛んだ。
怪魚の巨体、その命核を狙い、飛び込む。
槍が確かに、心臓を捉えて穿ち、貫いた。

(ようやく……終わったのか……)


(……安らかに眠れ)


…………

そうして、陽が昇った。
雨と湖水がきらきらと光る。
俺は天を見上げ、それから仲間たちのほうへと歩き出した。

「ただいま」


一同
「誰?」