さいごの7ページ ~ 不思議な島と、人たちへ
知らないものだらけの中ではじまった、先の見えない大冒険。

「この島に来て、ほんとーにいろんなことがあったよなー」
砂浜を渡り、岩場を渡って、森を駆け。
洞窟を抜け、離島に渡り、船へと乗り込み、遺跡を目指して。
危うく迷いかけたりもしたけれど、なんだかんだで乗り越えて。
「イザベラのねーちゃんは血を吸わねー吸血鬼で、なんだかずっと楽しそうだったなー!
”あいする人”が昔オレたちと同じ目に遭ってて、
この島のことをちょっとだけ知ってたらしいんだー」
「あれ、でも血を吸わないとか太陽が大丈夫なのって、
もしかしてこの島にいたからだったりすんのかな……?」
「ま、そんなのどーでもいっか!
だってイザベラのねーちゃんはめちゃくちゃ頼りになる、
みんなのねーちゃんみたいなすげーいい人だったんだからな!」

「そーいえば、あっちの島で見つけた花を押し花にしてたっけ。
確か”あいする人”へのお土産? だとかなんとか。
きっとその人、めっちゃ喜んでくれるだろーなー」

「いつか、ねーちゃんにヒノモトを案内できたらいいなー。
その時には、きっといいお土産話がいっぱいできるはずだからな!」
拾い集めた素材を合わせて、落ちてた器で水を汲み上げ、魚や木の実を焼いては食べて。
飲み水の作り方なんて、この場所に来るまで知らずに生きてきて。
苦労して手にした食べ物がこんなに美味しかっただなんて、今まで知らずに生きてきて。
「クーが最初、元の世界に帰らないで、
オレやリリルカの世界に行きたいって言い出した時はびっくりしたぜ」
「元いた世界だと色々あったみてーで、自分から逃げ出した……? みたいな。
そんな感じなのかな、多分。むずかしーことはわかんねーけど……」
「最初に出会った頃は周りにめっちゃ気を遣ってて、
怖がりなのかな? みてーに思ってたけど、全然そんなことなかったなー」
「自分で色々考えて、気になるとかやりたいと思ったことには一直線で……。
クーがいなかったら、オレたちはこの島の秘密にも気付けなかっただろーし……」

「やっぱり、冒険家とか研究者に向いてると思うんだー!
なんかリリルカの船の副船長兼考古学者兼マッサージ師? になるみてーだから、
一番最初にまた会えるのは、クーたちなのかもしれないなー!」

「あっ、それに意外とチャレンジャーなとこもあったっけ。
もしかしたら、イザベラのねーちゃんよりも度胸があったりしてな!」
いつも通りの当たり前が、ここではまったく当たり前じゃない。
そんな生活も、毎日がずっと楽しくて。
「レナードのにいちゃんの世界では、吸血鬼と天使で戦争してるみてーなんだ。
詳しいことはよくわかんねーけど、けっこー大変みたいだ」
「にいちゃんとは色んな話をしたなー。
怖いものが苦手だって話とか、実は半吸血鬼だって話とか、
ほりゅーたちに名前つけてくれたのもにいちゃんでー……
あ、さっきの戦争の話も!」
「”戦争は簡単になくならない、難しい話だ”って言ってたけど、
オレはいつか、みんなが変われる時が来るって信じてるんだー。
そのためにも、まずは話を聞いてもらって、それを広げて……」
「にいちゃんも、
”いつかできるようになりたい”って思ってくれたみたいでよかったぜ!」
「だからオレは、
”いつか吸血鬼と天使のみんなが仲良くできれば”ってにいちゃんの夢が叶うよーに、
ヒノモトに帰ったらお祈りしてみよーかなって思ってる。
……じーちゃんに作法とかあれこれ言われるのは、ちょっと嫌だけど」

「あ、それと、これ以上尖ったものを踏んだり、
動物にひっかかれたりでケガしねーようにもな!」

「……うん、きっと大丈夫!
だって、夢は叶うものだし、叶えるものなんだからな!」
ここから離れてしまうのが、どうしようもなく寂しくて。
「リリルカはお城に住んでるお姫様……じゃなくて、
なんか色々フクザツなことを抱えてる感じだったなー」
「お城の中に閉じ込められて、自分じゃない自分にならなきゃいけなくて。
そんなの、オレだったら嫌だなー……」
「だから、リリルカがちゃんと”リリルカ”でいられるよーに、
話を聞いた後で船まで猛ダッシュしたんだー!」
「結局花は見つかんなかったけど、前に拾ってたのを思い出して、
それをプレゼントした!
リリルカはちょっとだけ泣いちゃってたけど、
きっとあれは悲しいとかの涙じゃないって、オレは思うんだー」
「船に乗った後教えてくれたんだけど、リリルカはクーと冒険の旅に出るみたいなんだー!
最初はすげー大変かもしれねーけど、
それでもやっぱり、リリルカがリリルカらしく生きていけるのが一番だよな!」

「だから、
ヒノモトに帰ったらレナードのにいちゃんの分と合わせてお祈りするんだ!
二人の冒険がより良いものになって、ずっと楽しく過ごせますよーにって!」

「ついでに、海でも迷子になったりしねーようにもな!」
誰も知らない島ではじまった、不思議な不思議な大冒険。
長くて短い7日のうちの、最初で最後の7日目。
遠ざかっていく日常に思いを馳せながら、少年は今日も——
——少年たちは今日も、船を漕ぐ。
たとえ道が交わらなくとも、目指す先が違えども。
共に過ごした時間は、歩んだ道程は、今でも胸の中にある。
曰く、「ここは寂しい海」なのだとか。
曰く、「全てはハリボテに過ぎない」のだとか。
“ハリボテ”という名のキャンバスに、描いた五つの物語。
幾重にも重ねたとりどりの色が、今では眩く輝いている。
この海は決して、寂しい海なんかじゃない。
この日々は決して、ハリボテなんかじゃない。
故に少年は叫ぶのだ——
いずれ少年たちは歩き出す。
一人、またひとりと船から降りて、それぞれの道を歩き出す。

「いつか絶対に、また会おうなー!」
そうして手を振り別れた後で、交わらぬ道のその先で。
いつになるかはわからないけれど、笑顔でまた会うその日まで。
想いの詰まったシーグラスを手に、
ほんの少しの、さようなら。
たとえ離れ離れになったとしても、決して忘れたりなんてしない。
どれだけの時が経ったとしても、
笑顔で別れたみんなの姿は、色褪せることなく残るはず。
この世界は終わったのだと、誰かが言う。
この海は終わったのだと、誰かが言う。
でもオレは、そうは思わない。
全てが途絶えたこの場所で、新たに繋げたモノがある。
全てが途絶えたこの場所で、新たに紡いだモノがある。
全てが途絶えたこの場所には、確かに築いたモノがあるんだから。
絆、思い出、そしてオレたちの大切な場所。
そう、オレたちは——

「オレたちはみんな、ここにいたんだ!」
全てが沈んで海の中。
一度開いた海はまた閉じて、そしてまたいつか開くのだろう。
それでも消えない、消えることはない。
——遠く深い海の底で、少年の残した小さなガラスの墓標が、
波間から差し込む微かな光を受けて、きらきらと輝いていた。