Eno.537 リバティの日記

未来


島で、皆と楽しく過ごした。
たくさんのすてきな思い出。
きっと、これはかけがえのないもの。


元居た場所に帰ったなら、
だいすきな家族たちに、だいすきなパパに、
今回のことを話そう。
たくさん、たくさん、話すことがある。
形のない思い出をいっぱい胸にかかえて。







元居た場所に、戻ったなら。
向けられるのは好奇の目、インタビューのマイク。
「一体なにがあったのですか」
それを知っているのは、このこどもだけだから。

思い出せなかったこと、は。

テントの裏まで来て僕の体を触ろうとしたのが、
すごくえらいひとだったこと。
そのひとが、檻の中の弟たちにすごく吠えられて……
あのサーカスは危険だって、そう言ったから。

サーカスを、やめなければならなくなったこと。
動物たちを、大切な家族を。パパと僕で、毒のえさで──


パパが、こんなに泣いているのを初めて見た。
僕もたくさん泣いて、泣いて、それから。
パパがくれたジュースを飲んで……

目が覚めたとき、パパと僕が乗った車が、
崖のさきの海へ直進しているところだった。

僕はとてもとてもねむたくて、もういちど、目を閉じた。




生きてさえいれば。

きっと、生きてさえいれば、良いコトがあるんだって。
僕にジュースを渡しながら、パパはそう言った。
僕の頭を撫でながら、ずっと泣きながら、パパは。
そう言ってくれたのに。



生きてさえ、いれば。

僕は生きている。ひとりぼっちでも、まだ。


みんな……見ていてくれるよね。
パパもママも。弟たちも……

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