Eno.600 アルノー・シュヴァリエの日記

幸福の鳥「アルノー・シュヴァリエ」

アルノー・シュヴァリエは再び空を舞っていた。

彼の大きな翼は、青空を切り裂き、白い雲をかすめ、遥か遠くの大地へと向かっていた。
無人島での生活を終え、船での生活をしばらく楽しみ、
そして、途中の仲間との別れを惜しみつつも、
新たな冒険の始まりを告げる旅路が再開されたのだ。

彼の自由奔放な性格とともに、その瞳には好奇心が輝き、
どこまでも飛び続ける力が宿っていた。



しかし、アルノー自身は気づいていなかった。

彼の旅がもたらしていた災厄のことも、
それがジャン・シュヴァリエの祈り呪いによるものであったことも。

彼が訪れた国々は、すべて彼が去った後、次々と滅んでいった。

理由はさまざまだった。

ある国は戦乱に飲み込まれ、

ある国は疫病に襲われ、

またある国は自然災害によって崩壊した。



アルノーはその光景を目にすることはなかったが、
いずれの国でも人々は彼を一瞬の英雄として称賛し、
その後に訪れる破滅を避けることはできなかったのだ。


だが、無人島での生活――それは彼にとっても、
彼を取り巻く運命にとっても特別なものだった。

あの島で彼は、

初めて「」という存在と本当の意味での絆を結んだ。
あちら側はどうかはわからないが。

仲間たちと協力し、助け合い、日常の小さな困難を共に乗り越えた。

それはただの冒険とは違う、日々の生活という意味での「旅」だった。

彼が思い描いたものではなく、
ジャンが生きていた頃に願っていた「平和な世界」の象徴だった。

知らず知らずのうちに、アルノーはジャンが成し遂げたかったものを、

その島で体験し、実現していたのだ。

そして、それがジャンの呪いを解き放った


もちろん、アルノーはそんなことに気づくはずもない。

彼は変わらず、自身が最も美しいと思い込み、
その美貌を称賛し続けるナルシストな鳥人だった。

彼が再び旅を再開してからも、何も変わらないように見えた。
だが、ひとつだけ変わったことがあった。

それは、彼の名前が遥か遠くまで知れ渡っていたことだ。

旅の途中で立ち寄ったある町で、
彼は自分の名が子どもたちの口から次々と語られているのを聞いた。

まるで昔話のように、アルノー・シュヴァリエの冒険譚が語り継がれ、

その物語は絵本となって町中に広まっていたのだ。

「アルノー・シュヴァリエって知ってる?
空を飛ぶ大きな鳥人で、いろんな国を旅してるんだって!」


「お兄ちゃん、この絵本読んで!
アルノーが悪い魔法使いをやっつけるお話があるんだよ!」



街角の広場で、彼の耳に入ってきたのは、
自身の冒険が美化され、脚色され、あたかも伝説の英雄のように語られている声だった。

アルノーは驚きとともに、不思議な感覚を抱いた。

彼は自分を「美しい存在」として賞賛されることに慣れていたが、
物語の中の英雄として扱われるのは初めてだった。


「ほほう……ワタクシが、絵本の中で語られる英雄だと?それは……ふふふ、なんとも愉快だな!

やぁれキミタチ!!!!!その絵本のアルノーとは!ワタシ自身だ!!!!

うわでた不審者!!!!!おまわりさーーーん!!!




自分が知らない間に物語の中で生き続けているという事実は、
彼の自尊心をさらに高めた。


だが、彼は知らなかった。この絵本が生まれたのは、
ジャンの呪いが解かれた証でもあったことを。

過去の旅で彼が訪れた国々が次々と滅びていったのは、
ジャンの死と共に残された聖職者にあるまじき強い独占欲、そして過去の無念の呪いが原因だった。

ジャンがやりたかったことを成し遂げる。


そして、無人島での生活を通じてアルノーは、
その望みを無意識のうちに成し遂げていた。

仲間たちとの協力、助け合い、共に築いた絆は、
ジャンが願って確実に実現できなかったものだった。

それゆえに、ジャンの呪いは解かれ、アルノーがこれから訪れる国々は、
もはや滅びる運命から解放されていたのだ。



だが、そんなことを知る由もないアルノーは、
ただ自分の名が広がり、絵本として残ることに満足し、
再び空を飛び続けた。


「ああ、ジャン。
もしキミがこの絵本を見ていたら、どう思うだろうか?

ワタクシが英雄として語り継がれていることを、友として喜んでくれるだろうか……」

青い空を眺めながら、アルノーはふとジャンのことを思い出した。

あの清らかな笑顔、まっすぐな瞳――彼の美しさは、
どんな物語にも語りきれないほど深かった。

彼の内なる闇を知らなかったアルノーは、
自分を美しいと思い続けていたが、
心の奥底ではジャンこそが本当に美しい存在だったと感じていた。



「……勿論!ワタクシはジャンの次に美しいがね!!!」



そうそう、絵本で思い出した。



彼の旅路にはもう一つ新たな変化が生じていた。

それは、極稀に出会う懐かしい顔ぶれ――かつて共に無人島で過ごした仲間たちとの再会であった。

再会はいつも予期せぬものだったが、
旅の途中でふと立ち寄った街、彼らの故郷にて偶然にも仲間たちと出くわし、
共に過ごした日々を語り合うことができた。


「おお、__くんじゃないか!
無人島と船での生活以来じゃないか!

覚えているか?え?覚えてない!?
……冗談?あぁよかった、思い出すために足蹴りをするところだったよ。

ふふ、あれは、ワタクシにとってもかけがえのない日々だったな!」

そう言いながら、アルノーは変わらぬ笑顔を見せ、しばし懐かしさに浸る時間を楽しんだ。

かつての日々は、ただの思い出にとどまることなく、今でも彼の心の中で輝いていた。

そして、その無人島での冒険は、彼の名を冠した絵本の中にも描かれていた。


町の本屋や広場で、子どもたちが楽しそうにページをめくる絵本の中に、
アルノーとその仲間たちの姿が色鮮やかに描かれていた。

無人島でのサバイバル、協力して作った家や食べ物、
そして共に笑い合った日々――そのすべてが物語の中で美化され、脚色されていたが、
それでも核心は変わらず、彼らの絆がしっかりと刻まれていた。


「ほほう……無人島での冒険がこんなに立派に描かれているとはな!

ふふ、まさにワタクシたちの大冒険だな!」

アルノーは誇らしげに絵本を手に取り、
物語の中の自分と仲間たちの姿を見つめた。

自分が物語の中心にいることに満足しつつも、
彼にとっては、その絵本に描かれた仲間たちとの時間こそが最も大切なものなのか、その部分を愛おしそうに触れ続けた。


アルノーは再び翼を広げ、彼の旅はまた始まる。

あのシマで共に過ごした仲間たちの元へも、いつかまた訪れるだろう。

どこへ向かおうとも、彼は自由な心とその美しい翼を広げ続けるだろう。
新たな冒険が待っていると信じながら。