Eno.1073 府高木 西三の日記

出航

 朝日が昇るとともに、救助船は出航した。
 岩場の方からなんかすごい音した気がするが、どうやら無事出発、合流する事が出来たらしい。
 薄々そんな気はしていたが、船が出航して間もなく、島はその大半が水没していた。洞穴は当然として、拠点すらも残っているかどうか怪しい。
 ……洞穴の奥の遺跡は、海面の上昇に伴って、その扉を閉めたんだろうか。

 間違っているかも知れないが、資料によれば、この海……研究員だと言う眼鏡の人間が言うには、ジーランティス、と呼ばれているようだ……の力を取り出し、それを用いる技術を「魔術」と呼んでいた。
 そしてその結晶があの不思議な石であり、不思議な石に未知の箱を触れさせると、海の力の結晶とも言われるシーグラスに変わる。
 と言う事はつまり、未知の箱は海水、それも海そのものに触れると、全部シーグラスに変わってしまうんじゃないだろうか?
 流石に全部が一瞬で変わるって事は無いかもしれないが、だとすると、あの遺跡に海水が一滴も入り込んでいなかった事に説明が付く。
 ……まぁ他にも島はあるみたいだし、あの手の記録媒体は保管場所を分散するのが基本中の基本だ。だから、島1つ分ぐらいは沈んでも、問題ないのかもしれない。
 術式で作られたもので、元があってそこから大量複製も可能だったとしたら、それこそそこらじゅうの島全部にあの遺跡を隠す事も可能だろうし。

 さて。
 やはり島を離れたからか、それとも「海が開いた」からか、出航して割とすぐに最後の記憶、自分の名前を含む各固有名詞を思い出す事が出来た。
 ならまぁ、当然すぐ、自前のものが「海」の干渉で暴走した、という形だった、隠形の術も解除する訳だ。
 こういうのは隠してても混乱が加速するだけだし、さっさと姿を見せた訳だが。

 既に休んだらしく姿が見えなかった若干名はともかく、まー驚かれるの何の。

 一応俺、これでも170はあるんだがなぁ?
 顔が童顔で可愛い系だと小さく見えるってのは、どの世界の住民でもあんま変わらないらしい。
 ともあれ、改めての自己紹介は済んだし、後は完全にこの「海」を抜けるまでのんびりするだけ……。
 ……あぁいや、報告書を書かないといけないんだった。
 それも親父向けに全部書いた奴と、あいつら向けに良い感じにあちこち誤魔化してつじつま合わせした奴を。
 やらない訳にゃいかないのは分かり切ってるんだが、面倒くせぇ……。