Eno.371 萬月冬の日記

無題

 海賊の女性曰く。
 帰りたい場所を念じれば、この開かれた海は応えてくれるのだという。海は繋がって、その場所への道が生まれると。
 このでかい船が都内のど真ん中にでも出現したら大騒ぎだと思うのだが、まあその辺は上手くやってくれるのだろう。多分。

 さて、その言葉が真実なのだとすると、ひとつ気がかりが生まれる。

「この船が海上彷徨ってんの、あたしのせいだったりする?」

 ……帰りたくない、とか、みんなと別れたくないとか。
 そういうことを思っているこの身が、みんなの帰路を邪魔している可能性がある。

「……海にでも飛び込むかなあ。どーしよ」

 私はそれでもいいのだけど、子供たちの前でそんなショッキングな事件を起こすのは流石に気が引ける。勘違いでなければ、それなりに仲良くしていたはずだし。



 私の世界は滅びた。……というと、端的に過ぎる気もするが。
 要はバイオハザードである。ゲームの方でもいいし、原義の方でも変わらない。どこぞの研究機関だかなんだかがバイオテロを巻き起こして、そうして人類は死に絶えたりゾンビになったりした。
 ひょっとしたら「主人公」なんかが現れて、全部を良い感じに解決してくれてたりもするのかもしれないが……だとしても、既に死んだ私まで救済対象かどうかは非常に怪しい。
 まあ、そういうわけで、帰りたくない事情は完備しているということだ。

「……ま、だとしてもね。子供を親元に帰さない訳にはいかないでしょ」

 口に出して、自分を納得させる。……うん。もう大丈夫。きっと。
 大人組にしたってそう。帰る理由がある人間を縛り付けるなんて、そんなのはとても格好悪い。

「全員帰し終わったら、この船はあたしが貰ってもいいかな。そんで、適当にふらふらしたりして」

 また海が閉じて、どこかに島が浮かび上がったら。また全て忘れて、ニューゲームを始めてもいいかもしれない。
 そういうことを思った。