拝啓 マルルメラル様へ

「私は西海の果てへ行く。」

「セラン。」

「君は君の心のままに、
この広い世界を生きていくんだよ」
マルルメラル様。
あなたが旅に出て、もう900年ほどが経ちます。
お屋敷は今日も変わりなく、
マルルメラル様が海底へと沈めたあの日のままに
ぴたりと時を止めたように、あなたを待っています。
海の底を歩いてあなたに会いに行こうかと思いましたが、
お屋敷を預けられる知り合いもいないので、やめました。
そんな物思いに耽るのも、もう353回目になるでしょう。
セランは変わりありません。
…いえ、今は少し変わったと言えるかもしれません。
もうお屋敷を出ることをやめようとは思いません。
お屋敷は少々空けてしまうことになりますが…
未だ未踏の地として名高い西の海の底までやって来るような
招かれざる客はいらっしゃらないでしょう。
居たとして、海の魔の餌食になるのが落ちでございます。
あなたの作ってくれたこの身体で、あなたの与えてくれたこの心で
暗く果ての見えない水底を歩いても、きっとあなたを見つけます。
いつかあなたと再び同じ時を過ごせる日を待っています。