Eno.7 禍津神陽 セトの日記

マリーの日記

それは癖のある少年の文字で書かれていた。




こうして、何かを書くって言うのは久々だから、昔みたいにはできないかもしれねぇけど、一人で頑張ったお前が見返して安心できるように、また書いてやる。セトは俺達の日記を読むのが好きだもんな、なあ?そうだろ?泣いちまうぐらいに好きなんだからな、ご褒美に俺達が書いてやるよ。どうだ、嬉しいだろ?なあ?はは、まあ、期待はするなよ。


船が爆発して沈んだ時は、さすがの俺達もビビったぜ。よくもあんなことができるよな?マールはずっと船に向かって何か叫んでいやがった。あいつはキャンキャン吠えて、それはそれはうるさかったぜ。お前が間一髪のところでトトを連れ出して、俺達を引っ込めたから全員無事で済んだんだ、よくやったよな。あんときは突然すぎて、俺達は、ジャックは、誰がお前の身代わりになって守ってやるかすぐに考え付かなかった。俺達も平和ボケしてんのかもしれねぇな、国に戻ったら、少しくらい戦争を起こした方が俺達のためかもしれねぇ。冗談だよ。


お前、そんなに謝るなよ。俺たちは大丈夫だぜ。お前には声も届かないからよ、不安になるかもしれないけど、俺たちは大丈夫、本当だ。ナナも自分の体が丈夫でよかったと言ってたぜ、お前の力になるから。だから不安なことなんてないんだ、セト、大丈夫さ、俺たちはずっとお前をここで見守ってるよ


この島って変な奴しかいねぇな。俺達がたまの贅沢で食ってた奴らが同じような言葉で喋るし、動くし、俺達にはちょっと気味が悪かったぜ。マールとチャロは相変わらず、カニがしゃべるだけで大笑いだよ。ああ、そうそう、チャロは特にうさぎに興味を持ってたみてぇだよ。自分と同じ名前が嬉しかったらしいぜ。うさぎを呼ぶたびに自分が呼ばれてるような気が済んだと。そう言ったらニアはちょっと拗ねてたぜ。あ~あ、お前が俺たちの名前を呼ばねぇから。呼べねぇのはわかってるけど。


飢えて苦しいかい、セト。ああ、俺達はそんな程度なれきってるから代わってやりたいよ。飢えると心までひもじくって惨めで嫌な気持ちになるだろう。俺たちはお前が心配だ、変に我慢なんかしないで、たらふくメシを食らってほしい。ナナの体のためじゃないぜ、お前のためだよ。頼むよ。


俺たちはお前が眠っている間、みんな一緒に眠ったよ。夢なんてここではみれねぇけど、みんな目を瞑ってた。だって、そうしたらお前に会えるような気がして。お前は俺たちの夢を見たかい?なあ、いい夢が見れたか?夢の中だけでも俺たちと一緒にいてくれよ。夢の中の俺達はさぞ喜んでいただろうな。


嵐ってのは随分と心を不安にさせる、俺達は雷の音が聞こえるたびにおっかなくて、もうないはずの心臓がバクバクとしていたよ。嵐の間は風景もあんまりかわりゃしねぇし、お前の元気がねぇから俺達は結構退屈してたぜ。ティウも風と雨の音が怖いみてぇ、ずっとジャックに抱きついてたよ。俺達だってお前に抱きつきたかった。お前が不安だと俺達も不安なんだ、わかるだろ?俺達は似てるんだから。


よかったな、ぬいぐるみ。俺たちの代わりにするにはちょうどいいじゃねぇか。よくできてるよな。本当に、あの堅物が、俺たちを。みんな驚いたぜ、呆気にとられてた。トトがあんなことするなんて誰が思ったよ?お前が泣いたとき俺たちもみんなで泣いたぜ、ずっと心配だったんだ。お前が俺たちのために気丈に振舞うのが、我慢をしているのが。胸が張り裂けそうだったよ。


でけぇ風呂は気分がいいみたいだな?ニアが言ってたぜ、湯の水面にお前の顔が写るのが嬉しいと。ここには鏡もないから、お前の顔が見えなくて酷く哀しい、寂しいんだと。ざぶんと浸かるとゆらゆら揺れてよく見えなくなるから、俺たちは、俺たちがじっとしていたって意味がないのに、黙って静かにしていたよ。


セト!セト!帰ったらかき氷を絶対に作ってくれ!マールがやかましくて仕方ない!ずっと地団駄を踏んで食べてぇと駄々をこねんだ。あの石持てるだけ持って帰ろうぜ、このままじゃこいつは黙りそうにねぇ。ジャックが口を押えてもびょんびょん跳ね回ってうざってぇ!


ティウはあのガキと仲良くしてぇんだと、うさぎとも、カニとも。俺達じゃ不満か?なんて意地悪言ってみたらジャックが俺達のことを殴りやがった!ティウは俺達の中で一番ガキが好きだよな。あいつ、ずっと自分が一番下だったからテテに対しても姉貴面してたしよ。今時あいつより年上なんかほとんどいやしないのにな?はは、可愛いもんだよ


ニアは、あのでけぇ鉄仮面の男が気に入ったようだぜ。ジャックはなんかごちゃごちゃ言ってたけどよ、ニアはあいつの作るメシに興味があるみたいだぜ。はは、そうだよな。ニアはお前と一緒に料理すんのが好きだったもんな!じっと真剣に見てやがんだよ、セトと一緒に作りたいんだと。戻ったらきっと付き合ってやれよ。ニアはやる気だぜ。今からつくりはじめちまいそうだよ。


こんなさみぃのはいつぶりだろうな?くそみてぇな国も時々さみぃ時はあったけどよ、これはやりすぎだぜ。俺たちは身を寄せ合ってくっついていたけど、お前が冷えているからだろうな、ずっと寒かった、あったまるときはお前がいないとだめだな。でもナナのでけぇ体にみんなでくっついたんだ。国に帰ったら、俺達はお前に同じことをしてやろうな、うれしいだろ、なあ?


あのカニ、俺達もジャックもあのカニは気に入った、すぐに気に入ったぜ。同族殺して人間に振舞うなんてよ、イカれてる!あれは本当に面白かった、ジャックは転げまわってたぜ。マールは……まあかかなくたってわかるだろ。あいつ飛んで跳ねて大変だったんだからな。にしたってよ、お前、俺達とチャロは本当に少しだけ、少しだけな、トトが気の毒だと思ったぜ。必要とされない恐怖は、お前だってわかってるくせになぁ。まあ、あいつは俺達とは違うから、お前がいいなら、いいけど


お前、随分と貢がれてるな、気分はいいか?俺達はお前が大事にされていると嬉しい、だから俺達は気分がいい。あのトトが自分の体を動かしてひいひい言ってんのがマールは相当面白いらしいぜ。俺達も同感だ。シーグラス、綺麗だったな、俺達に作ってくれたランプにも似てるし。それはセト、お前だけの宝にしろよ。だって、俺達にはお前がかき集めた財宝があるんだからな!早く持って帰ろう、ジャックはもうとっくに金の勘定をはじめたぜ。あいつ文字もかけねぇのに、こういうのは得意なんだよな。


ついに船が出たな、俺達はこの日をずっと、ずっとずっと、楽しみにしていたぜ。そろそろ、お前に会えるんだろ?はは、早く会いてぇな。みんなお前にあったらまず何を話すか決めてるみたいだぜ。俺達は、これをくれてやるから、勘弁してくれ。未だにこういうのは恥ずかしいんだ。わかるだろ?それよりもトトがこけた時、あれはすげぇ笑えた。マールとジャックは笑いすぎて死にかけてたぜ。


花火大会、綺麗だった。みんな夢中で見てたぜ。お前が楽しそうに祭りに浮かれているのも見ていたぜ。マールとチャロはずっとメシの話ばっかだったけど。ニアとティウは特に気に入ったようで静かに黙って寄り添うように眺めてたよ。ありゃいいもんだ、ジャックもそう言ってた。間違いなくいいもんだな。なあセト、お前がおしえてくれたとおりだった。


なあ、なあセト。あいつトト、俺達に向けて、あの花火を作ったよな?そう思わなかったか?皆知らなかったもんだから、お前の色の、クレオパトラ色のでかい花から誰一人目を逸らせなかったぜ。俺達は、この色が大好きなんだ。知ってるよな。俺たちの色だぜ、俺たちの大好きな色だぜ。なあ、綺麗だったな。完全に消え去るまで俺達は釘付けだったよ。


早く会いたい、会いたいよ。もう目前ってとこまで来たんだ、お前だけこっそり船に乗って出たらだめなのか?だめだろうな、それはだめだ。俺達は我慢できるぜ。慣れてるから。それに長いこと待つと、いいことがあるから。なあ、セト、今度は俺達が迎える番になるな。早く俺達に会いにきて、俺達は今か今かとお前の帰りを待ってる。


へえ、お前、欲張りだな?俺達以外からの加護なんて……冗談だよ、よかったなセト。俺達はお前が嬉しいってのがよくわかるから、俺たちも嬉しかった。供物だぜ、セトへの、うんと大事にしろよ。ジャックはそう言ってたぜ。ジャックは物をやるのが好きだからな、あのガキの折った紙切れを見て笑ってたぜ。


早く島が沈んじまえばいいのに。そうしたら、お前に今すぐにでも会える気がする。なあ、俺たちはいい子に待ってるぜ、セト。早く、早く、帰ろう。この島が惜しい気持ちは俺たちも知っているぜ、それでも俺達は……お前に触れたい。抱きしめたい。トトが、お前の写真を見せるもんだから、俺たちは寂しくってたまらなかった!たくさん話したいことがあんだぜ。出発が待ち遠しくて、俺達とジャックはずっと船のことを考えてた。


やっと、やっとお前が船に乗って、俺たちはみんなで喜んだ。お前も嬉しかったか?だって、もうすぐ、もうすぐに会えるのだぜ。チャロは嬉しさのあまり踊り出すし、ジャックはお前が数えてる金貨を一緒に数えてた、ニアとティウも寄り添って嬉しそうにしてたぜ。俺達はマールと一緒に海を見てたよ、今度はみんなでお前の帰りを待てるんだ、ナナも嬉しそうに笑ってた、早く帰っておいで。


もうこれ以上書くことはねぇ、なあ、なあ!だってそうだろ?俺たちはもう我慢しねぇ、いっぱい我慢したんだ、俺たちもお前も。こんなの呑気に書いてたってしょうがねぇ!おかえりセト!ずっとこの時を俺たちは待っていたぜ。!はは、ははは!俺たちはお前にずっと会いたかった!!


楽しげな子どもたちの笑い声がする、確かにこの地へ戻ってきたのだ。