Eno.15 トト・アズハル・イルファンの日記

オーランの日記

形のいい、男の字で書かれた手記。



トトの乗った船が、沈没したとの報告を受ける。
事故の形跡は見られず、人為的なものだとのこと。
暴力では何も解決しないと言うのに。

俺は王として不甲斐ないよ。
こんなやり方は間違っている。

話をしよう。俺たちには言葉があるのだから。


セトがついていれば大丈夫なはずだ。
トト。怖い目に遭ったな。すぐ戻っておいで。俺の宮殿は安全だ。こんなことをしたのは誰か、突き止めておく。お前たちが帰って来るのが待ち遠しい。
俺がぎゅ〜っと、抱き締めてあげるからな!


新しい報せはないらしい。
見つかるのは船の残骸ばかりだと。俺はふたりの強さを知っているからな。お前たちの無事を信じている。わかってるぞ。今は そうするのが最善なんだろう?
俺はいつまでも、待っているぜ!


トト!今日は宮殿の皆とパンを焼いた!
ふわふわ!結構上手く焼けたんだぜ。ここに肉と野菜を挟んで、食べながらこれを書いている。お前はお行儀が悪いと思うかも知れないが、許してね。
帰ってきたら うまい焼き方を教えてやるよ!


随分遅くなるんだな、トト……
会えないのは寂しいが、それでも君を待つ間、俺が心穏やかなのは、君の無事を願えているからだ。俺はトトのために祈っている。頼んだぞ、セト。
俺のトトを護ってくれよ。任せたぜ!


捜索は難航しているらしい。
ふたりとも、漂流なんかしていないんだろう。セトが既に傍の陸に向かったのだろうけれど、心配だ。こんなに遅いと、セトが傷を負っている可能性がある。
はあ。なんだか宮殿は退屈だな……


本当に、ずいぶん遅くなるんだな!
帰ってこられない状態なのか?セトになにか 問題が起きているのか?俺はトトがくれた思い出にしっかり支えられているから、心配しなくって大丈夫だぞ。
急がず、安全を確保してくれ。大丈夫!


トト、そっちは今 どうだろう?
俺は今日 街の子どもに会いに行ったよ。セトの子どもたちが居ないと、宮殿の傍は大人ばかりで寂しいよ。子どもは皆無邪気だな。俺も元気を貰えたよ!
あと、今日出たおやつが美味しかった!


俺は大人しく待っているよ。
でも、捜索を出すのは止めたくない。必要ないよな。セトが打破できない状況下に、人間を送り込んだって仕方ない。でも俺は、やらずに後悔したくない。
どうか、穏やかに過ごしていてくれ、トト。


トト、元気かな?それとも元気じゃない?
俺は送るわけでもないのに、こんなものを書き溜めてしまっている。仕事の合間、お前のことを考えると 自然に溢れ出てしまうんだよ。お前も寂しいだろうね。
早く会いたい、トト。


そろそろ心配だ、トト。
俺は待ち遠しいよ、トト!でも大丈夫、俺はお前たちの無事を願えている。俺には思い出があるからな。全然大丈夫だ。それよりお前が心配だよ、トト!
怖かったろう。抱き締めてやりたい。


お前たちは今、何処にいるのかな。
誰かに匿ってもらっているのか?それとも、どこにも行けないでいるのか?ここを照らすランプに ふたりのものが無いと 俺はなんだかとてもつらいよ。
なんでこんなに辛いんだ。皆優しいのに。


トト!!俺はさびしいよ!!
トトは筆まめだから、いつも便りをくれるじゃないか。だから待ててたんだ。俺、便りもないのは辛い。トトに会いたいよ。何も手につかなくなってきた!
仕事が積まれていくぜ。嫌だよー。


ここの皆は優しいよ、トト。
俺を慰めるために、お前たちの無事が確実であることをしきりに教えてくれるんだ。俺だってそう思うよ。でも、もし、もし。お前たちが戻らなかったら。
俺はひとりになってしまうのかな。


おねがいだ、セト。
トトを連れて帰ってきてくれ。お前は俺の小さい時から、無茶な俺の希望を叶えてくれたじゃないか。おねがい。聞こえないかも知れないけど、“おねがい” だ!
これはおねがいだぞ、セト!!







ノック音で目が覚めた。
何かがガラスでできた窓をしきりに叩いている。寝ぼけ眼でカーテンを開くと、窓の外でランプを提げたトトが笑っていた。

ごきげんよう、陛下



トトが セトの腕に抱かれて、ガラス越しに笑っている。トトの手の内で輝く生命のランプ、背景は一面の星空!
窓を開けると、セトはそこからトトを俺の部屋へ押し込んだ。その脚が絨毯に着く前に、思わず抱き止める。トトだ!トトだ!おかえり、ずっと待っていたんだ、トト!俺がわあわあと騒ぐと、トトは俺を強く抱き返してくれた。

面倒なことは やっといて差し上げる。

今宵は お話を楽しむがいい と、
セトは部屋に入りもせず、窓際から飛び去った。

彼の消えた窓越しの星空を見つめていると、
小さな傷のある白い指が 俺の手へと重ねられる。


ずっとずっと 君のことを考えていた。
話したいことが沢山あるんだ オーラン。