Eno.1034 スピスタの日記

ハーフエルフが勇者PTに入る理由②

魔王軍の斥候として。ハーフエルフは幾度も勇者PTを見ていた。
個々を認識していたわけじゃない。
一つの戦力集団として、その動向を見ていた。

だから、どれだけの苦労を重ねたのか知っている。
絶対に突破出来るはずもない壁を、彼らは乗り越えてきた。
時間を掛けて、幾度も挑戦して。

絶対に敵うはずがない相手に、向かっていった。
魔王に殺されるために努力をしていた。

とんでもない、馬鹿だと思った。
世界最高の武功か、一生遊べる金か、何を対価にすればこんなに馬鹿になれるのかと、冷笑した。

……けれど、違っていた。




「俺の勇者としてのルーツは、ただ一匹の妖精に葡萄を取ってきたことだ。
 だから……皆を困らせるような聖剣にはしない。
 できる限りの人に葡萄を食わしてやれるようなそんな剣にする」


聖剣も抜けないまま、勇者はハーフエルフにそう語った。
軍資金すら与えられず、無謀な旅を強いられた。戦えもしない人間の権力者に利用されているだけの、操り人形。
哀れで愚かな男だと、そう思っていた。
けれど、彼の旅は、その馬鹿馬鹿しい願いは、決して、誰かに強いられたものではなかった。
そうして彼は、魔王や魔王軍すらも巻き込んで、本当に世界を救ってしまった。



「人間が魔に勝てる証を立てないかぎり!
 魔族と人間が真に対等となれる日は
 永劫にこない!」


2人目の勇者、雷の勇者となった女は魔王の前でそう叫んだ。
魔王と対等、などと、魔族だって考えもしないだろう。けれど、彼女はそれを、本気で目指していた。
どれほどの鍛錬を積んだのか、雷の勇者の力を得たくらいでは届くはずの無いその手は、ほんの掠める程度かもしれないが、届いてしまった。




とんでもない馬鹿だ。
揃いも揃って。
けれど、ハーフエルフは彼らの中に、自分には無かったものを見た。
自分が捨てた人間の世界に、微かに輝く希望を見た。

子どもじみた感情だが、憧れた。
惹かれてしまった。
圧倒的な力をもちながら、誰よりも優しかった魔王。
かつて彼女に抱いたものと同じ感情を、人間相手に抱いている自分がいた。




「ハーフエルフ。悩んでる?
 アテないんでしょ。くればいい」


そんなハーフエルフに、貴族の魔法使いはそう、軽々しく言ってくれた。
優しい卵焼きの甘さを、ふわりと、思い出した。
彼女の言葉に、にどんな意図があったのかは知る由もない。
けれどその言葉は、ハーフエルフに手を差し伸べるも同じだった。




「ん? スピスタは冒険に行きたいのか?
 いいぞ、好きにするといい」

──スピスタは『魔王の加護-ラークスパー』を獲得──

魔王ならはきっと、そう言ってくれると思っていた。
まさか、あんなに早く許可をくれるとは思ってもみなかったけど。
真っ直ぐに向けられたその言葉は、誰の言葉よりも強く、ハーフエルフの背を押した。
迷いも、不安も、なくなった。




「お前ら、未知の場所に行くってんなら、オレ様みてーな斥候が必要だろ?」




新しい冒険が、始まる音がした。To Be Continued