むかしむかし
むかしあるところに、魔王さまがいました。
あるとき魔王さまは家族がほしいとおもい、自分の身体をわけて
むすめを生み出しました。
名前は、ザラーシャ。
「ザラ」は、お花や王女、夜明けを意味することば。
「ラシャ」は、ぶあつい毛皮の生地。
お似合いだ、すてきな名前だと、えらい魔の者たちは魔王さまの名づけを褒めたたえましたが、
どうみても「アザラシ」からとったことは、想像にかたくありません。
さて、魔王さまは、邪悪な神のちからを宿していました。
世界をほろぼしてしまうほどの、おそろしい力です。
魔王さまはこの世界をほろぼしたくありませんでした。
そして、だいじな娘に、自分の負担を、不安を、押しつけたくありませんでした。
むすめにも秘密で、自分の内なるものと、たたかってきました。
魔王さまは、ずっとずっと、世界をほろぼさないように、かんばってきたのです。
そんな魔王さまの想いを知ることもなく、
かわいくてすてきな名前を与えられたお姫さまは
口先だけはえらそうな、魔力いっぱいの子に育ちました。
そして時がたって。
魔王さまは、勇者と手を合わせ、ついに自分の中の邪悪なちからをなくすことができました。
もう、世界をほろぼすことにおびえなくて、よくなったのです。
安心した魔王さまは、あるとき言いました。
「余、け、結婚するから……」

「は?」

「やっぱこれわたしわるくなくない?」

「でもやっぱりイマイチね。ボツよボツ。
事実を書いたって、いい物語にはならないんだわ。
多少ちがくてもいいからさ、もっといい感じに書いてみてよ、盛り上がるように……
あ!ていうか聞き逃したけど口先だけはえらそうってなに!? ……」
(物語を誰かに書き取らさせる、魔の姫の記録)