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──昔、名も無き小さな池があった。時が流れるにつれ、その池には小さな神が発生した。
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小さいながらも、池の神はそこに住まう魚や生き物を守ろうと、澄んだ池の水を守ろうと日々奮闘した。
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──しかし、更に時が流れ、人々が武器を作ってはお互いで争うようになった頃。
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一つのモノが、池の近くにある丘から転げ落ちた。

ごろごろ、どぼん。
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ソレは池の青を赤く染めていく。
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一つ転げ落ちたのを切っ掛けに、また一つ、二つ三つ…数えきれないほどに転げ落ちていく。
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池はいつしか、澄んだ青を失くしていた。
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──また更に時が流れ、人々が武器から手を離した頃。
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住むところを失い、食べるものもなく、飲むものも無い人々。
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縋るように汚れた池の水を飲んでは、息絶え、その身を池に落とす。

ひもじい、かなしい、さむい、つらい。
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池がかつての姿を失って暗く濁る頃には、池の神は多くの悲しみや無念を抱えた魂たちと混ざり合って、神とも霊とも呼べない『何か』となっていた。

まぜまぜ、ぐちゃぐちゃ。みんな、みんな、いっしょ、いっしょ。
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おかしくなってしまった池は落ちたものの姿かたちさえ溶かして隠してしまう。

みつけてもらえないまま、ずうっといっしょ。
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──そして…人々が争っていた事なんて忘れられるぐらい、遍く人の暮らしが豊かになり、平和になった頃。
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もっともっと、まだまだ、際限なく豊かになろうと。
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池を埋め立てて、人々の住まいを建てよう、なんて誰かが言い出した。
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供養も地蔵もないまま、池はついに埋め立てられ、『何か』は初めて怒りを抱いた。

わすれられる、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない──!!
おはな
工事中に建設用の機材が何の前触れもなく倒れたり、クレーン車が勝手に動いては大事故に繋がったり。
非行少年たちが仲間で集まって騒ぎ出せば、一人が急に意味不明な言葉を喚きたてて発狂し、乱闘騒ぎが起こったり。
『何か』の怒りは池の跡地を利用しようとする者たちに怪奇現象となって降り注いだ。
空地の噂を恐れ、すっかり人が近寄らなくなった頃に『ソレ』は現れた。

きれいだね。

ひさしぶりにみた。

たべられないね。

でも、うれしいね。
青年が軽い気持ちで備えた、花束。

おもしろいね。

いいにおいがするね。

ここにはなにもさかないからね。

ずうっとここにいるのもあきちゃったね。

そうだね。

そうだね。

そうだね。

そうだね。

そうだね。

──だから。

あのおはなのひとに、ついていこう。

青年の想い人に届かなかった花束は、神と霊魂と恨みと悲しみと多くの者と混ざり合った『何か』が手に取ってしまった。
青年の中途半端な優しさが、『何か』の興味を引いてしまった。
恐ろしいものにつかれてしまった青年の行く末は…誰にも分らない。
──おはな、ついてく。おもしろい?つまらない?どっち?