Eno.132 エルディス・エアリアルの日記

おとぎばなし

………おや、私のお話を聞きたいのですか?

珍しいですね。こんなところまで……え?里の長に聞いてやってきた、ですか。

なるほど。でしたら、良いでしょう。そこに座ってください。お茶も出しますね。

「     」

お礼だなんて。良いのですよ。

ーーーーーーー

それで……ええ。"勇者"の物語ですよね。

では。

かつて、魔王が………

「     」

え?これではない?"金色のおはなし"?

………分かりました。語りましょう。

その覚悟があるのなら。



………かつて魔王を倒した勇者たちは、人の王達により裏切られました。

聖女は汚され、魔法使いは言葉と絆を封じられ、聖騎士は尊厳を奪われ

勇者は死に、そして、剣士は狂わされました。


……ええ、勇者は殺されたのです。

しかし、狂った剣士は勇者が死んだことを認められませんでした。何より彼らは、無二の友同士でしたから。


誰よりも長く共に旅をしていた剣士は、"勇者"となりました。

選定された訳ではありません。自らを殺し、その姿を変え、"生きている勇者"として振る舞いました。


その振る舞いは……独善的で、狂気的でした。


彼は、勇者の名を遺し続けるために

勇者の名を永遠にするために、ありとあらゆる"歪み"を排除し続けました。


魔物、犯罪者、ひいては………歪みと断じたあらゆる全て。その中には、少し疑問を持っただけの幼子すらいました。産まれたての獣もいました。


しかし、世間的にはまったくもって"正しい"ことをしていましたから。次の台の王は、それを利用しようとしました。


……そうして、また王はいなくなりました。歪みと断じられました。


彼は死ぬまで"勇者"を演じ通しました。まるで初めから、剣士などなかったかのように。


ありとあらゆるを断じて正す彼に、人間は、魔物達は……とうとう手を取りました。


そうして彼を"魔王"として、魔族から"勇者"が選定されて。

最期に彼は、とうとう力尽きたのです。



……けども、彼の功績はあまりに大きかったのです。

厄災の殲滅、病原となりうるものの根絶、犯罪者の全処刑。

"彼"に救われた者もあまりにも多かった。


だから、ひとびとに私達は提案しました。

『"勇者"の名は語り継ぎ、"魔王"は絶対悪として語り継ぐ』と。

「     」

……ええ。その勇者こそ、今も語り継がれる『青空と旋律の勇者エルディス・エアリアル』。

魔王こそ、今も語り継がれる『からの魔王』。

「     」

………はい。私は、かつての……かつて排された勇者一行の聖女でした。

「     」

ええ。ネリスと申します。既に瘴気のせいで人間ではありませんがね。

ミィカからきいてきたのでしょう?"勇者様"。

「     」


「           」

………そのポプリと宝玉は

「     」

………なるほど。ええ。1度だけ……"彼"が里に来たことがあるのです。


ある時、海辺の村で姿を消したと思ったら、戻ってきて。

それで、私達に言ったのです。「これらをずっと大切に預かっていて欲しい」と。


そのポプリと、海の宝玉シーグラス

そして、このアンティークのナイフと、外套。


「時間が無い」という彼のことを、どうして否定できましょうか。


私達は、それらを預かることにしました。

ついぞ、彼が受け取りに来ることはありませんでしたが。


「     」


ええ。盗まれたのです。それらは。
ポプリも宝玉も、一度盗まれて……今、ここにかえってきた。

「     」

……ありがとうございます。
これらは、失う訳にはいきませんから。


ええ、ご心配なく。きちんと、代わり……いえ、「青空のサークレット」の場所までご案内しますから。


「     」


……えっ?『空の魔王』は、本当はどう言う人物だったか、ですか?



そうですね……偉そうで、強引で……

「   」

……だけど、仲間思いで、誰よりも臆病で繊細なひとでしたよ。


「     」


そらの剣士』…………
琥珀を指し示す者ディータ・ベルンシュタイン』。


丁度、あなたのような黄金の長い髪と、広大な海のような蒼い目をした方でしたね