Eno.716 仮の日記

泡沫:終

──海の声がずっと聞こえない。


海辺で耳を澄ませても、その声はずっと聞こえない。
村から出て、街へと、その足は、大地を渡っていく。
人のいる土地を渡っていく。
海の妖精について、文献を片っ端から探して行った。
あってないような、目印を手立てに、街を点々とし、時折依頼を受け、探索を行う。

“神秘”と言うものから遠くかけ離れてしまったこの世界において、その文献を漁るのは酷く困難なことであったが。
歩く。読む。開く。
話を聞く。噂であっても拾っていく。
海の妖精たちは気まぐれで、生息域をすぐに変える。
だからその痕跡を見かけても、わずか数年で移った、そんな事実が浮かび上がることもあった。

素人ながらも、研究をノートへと書く。
それから、いた位置を推測する。
彼らの歴史をほじくり出す。
魔術学者の真似事のようなことを続けていた。

前に進む。
前に進む。

人魚に合わなくちゃ、ならないと、その足は前進し続けている。
初めの怒りは忘れてなお、進んでいる。
それは執着と言っても過言ではない。

その気持ちが自分をせき立てていた。
風を受けて、帆を張って。
それだけが確かだった。

海を目指している。
飛び出している。

飛び込んで、そこをめざして。


今日も。