- 再会 -
長い航海の末にエゾデスへと帰り着き、諸々の報告のために王都サポロスに立ち寄った日。
彼らの姿を一目見ようと集う人々の中に、勇者の仲間である吟遊詩人を見つめる男の姿があった。
吟遊詩人の彼女と どこか似た雰囲気を漂わせるその男は、何かを考えるような仕草をした後に 人混みをかき分け、一縷の迷いもなく彼女の元へと歩いていく。

「おやおや、大人気だねぇ。
やぁ皆の者!ボクが見、そして歌う物語を、是非とも楽しみに───」

『……失礼、勇者パーティーの吟遊詩人さん。
少し、良いかな?』

「…え?
……あ、あぁ、もちろんだとも。えーっと………」
彼の姿を確認し、言葉を聞いた詩人は一瞬面食らい、呆ける。
なんだか、どこか懐かしいような…ずっと失くしていたモノがすぐそこにあるような、そんな感覚がしたから。
本来の彼女であれば、
「フフ、そんなにボクのファンなのかい?
でもダメだよ~?ボクはそういうのしない主義なんだ」
……とか何とか言って多少厄介な者は躱してみせるのだが、その時ばかりは違かった。
素直に従い、男の後に着いていく…。
その様子を見て、違和感を覚えた者もいたかもしれない。
しかし、「…ごめん、少し離れるね。また後で」と彼女から直々に静止され、何者も後をつけることはかなわなかった。
───────────
────────
─────
よほど聞かれたくない話なのだろうか。
男は人目を避けるため、わざわざ郊外にまで吟遊詩人を連れ出した。
周囲に誰もいないのを確認し、彼は口を開く。

『…突然すまないね、こんな所まで連れ出して。
危害を加えるつもりは無いんだ。
ただ…少し、伝えておきたいことがある』

『…話をするにあたって、まずは謝らなくてはならないな。
君は、ある時からの記憶がないだろう?
それは…僕のせいだ。
かつての僕は間違いを犯し、君を長い苦しみの中に追いやってしまった…』

『その事について、今更許してもらおうとは思っていない。
全ては、今から言うことを聞いてから決めてほしい──』

『─── シルヴィカ』
“シルヴィカ”
それは、遠い昔に一人の青年が少女に与えた名前。
かつての吟遊詩人が、ずっと大切に抱いていたモノ。
そして、長い長い時を虚ろに過ごしてきた彼女を解放できる、唯一の鍵。

「─────……」

「…………………へ?」
──たった今、吟遊詩人は全ての記憶を取り戻した。
驚愕と困惑と、様々な感情が入り交じった表情を目の前の男に向ける。

「なっ、なっ………なんで覚えて………
も、もしかして、はじめから忘れてなんか………」

『…………すまない。
その、僕の伝え方が悪かったんだ…』

「~~~~…………っ!!!!
バ、バカ!!バカバカ…!!!このバカ兄………!!!
こんな、こんなの……勝手に暴走したボクが大馬鹿者みたいじゃないか…………!!!!」

『ご、ごめんて……(否定はしない)』

「そこは否定しろ───ッ!!!」

『うん……』
彼女は浮かぶ感情、思った言葉を、真っ直ぐに彼にぶつける。
彼はそんな彼女を、微笑みと共に受け止める。
そんな、かつての二人のすがたがそこにはあった。

「…はぁ、もう……とりあえず、一旦戻るよ…。
あんまり外すと後が面倒そうだ。
他の事は後で聞く、逃げたら許さないからな」

『わかった、いってらっしゃい。
また後でね。今度はちゃんと迎えに行くよ』

「!
…ふ、ふんっ!そんなので許されると思ったら大間違いだぞ…!」

『え~?』

「む、向こう1000年は一緒にいてくれないと許さないし、
もう兄さんって呼ばないし、名前呼び捨てにするからな…!
これからは“シオン”って呼ぶ……!!」

『ふふ、そんなことでいいのかい?シルヴィカ。
もちろんいいよ、何千年でも一緒にいよう。
呼び方だって君の好きにすればいい』

「……………なんだよ、ちょっとは文句言えよ…。
……ま、まぁ~? わかってるなら…、いいし……」

「(…くっそ~~!!
もうっ……、全っ然敵わん………!!!)」
様々を考えながら、いつもの調子で皆の元へと戻っていく。
そうやって隠そうとするものだから、
きっとしばらく、この事は二人だけの秘密になるのだろう。
「(戻ったらどう説明しよう、絶対いろいろ突っ込まれるよな…)」
「(……まぁ、名前くらいは教えてやっても良いかな)」
「(いや…やっぱ名無しのままでも良いかも)」
「…今更呼ばれたって、なんか…慣れないし……」
そんな決心をした彼女の心なんて露知らず、
ある日シオンがポロっと彼女の名前を溢してしまうのだが…
それはまだ、少しだけ未来の話だ。