星と海を往くヴォヤージュ
──過日。街酒場の一角。
「──聞いたか、おい。
巷を騒がせてる海賊団、とうとうウチにもやってきたらしいぜ」
「海賊? ありゃあ義賊だろ。
いや、本人たちはなんて名乗ってるんだったか……家族団? まぁなんだっていいや」
「奴さんら、別に悪事なんて働きやしねえじゃねえか。
未踏の島を開拓するだの、魔物の住み着いた洞窟を通れるようにするだの……やってることは慈善事業だぜ」
「この前は、隣国への海路に出る水神竜を銛で仕留めちまったらしいぜ。
眉唾モンだけどよ、そんな銛があるなら、そりゃあもう伝説の銛だな」
「船長もこのご時世に、銃じゃなくて弓を使ってるんだろ。
恐ろしい腕前らしいが、ヒトにゃ絶対向けねえってんだから、まぁ安心だぜ」
「それにしても大したもんだよな。
そこそこの人数だってのに、やたらと横の結束が強ぇんだと。
なんでも船長と副船長は姉弟だって話だ」
「そいつは結構なことで。
それで奴さんらは、いつまでここに滞在すんだい」
「おう、それがよ。
なんでも明朝、“別の世界”に発つんだと」
「はぁ~?」
──いつかの空。どこかの海。
一隻の船が往く。
絢爛たる装飾は、船長の趣味だ。
然れどきっちりと実用性を兼ね備えた船体は、
度重なる冒険により、熟練の風格を醸し出す。
甲板上で、船員たちが声を張り上げる。
「面舵いっぱい!
……さぁ、姐さんと兄さんの悲願を達成する日だ!
手前ェら、しくじるんじゃあねえぞ!」
「合点だぁ!!
進路よし、宜候ォ!
……よう兄弟、例の旗はキッチリと船の天辺に掲げたんだろうな!」
「バッチリですとも!
もうボロボロだってのに、保存魔法まで掛けて大事にしてんだから。
それも全部、今日という日のためですもんね!」
「そういうこった!
さぁ、道しるべもピカピカ光ってらぁ。
兄さんの計算が間違ってなきゃあ、じきに“世界の壁”をぶち抜くぜ!
野郎ども、気合を入れろぉ!」
応、と声が揃い、船が加速する。
波はざあざあと音を立て、空が微かに明滅し──
──ぐん、と引き込まれるような感触。
異なる風と潮の匂い。
晴れ渡った空は、“渡航”の成功を告げていた。
「成功だぁ! ここが“ヒノモト”か!
でも喜ぶのはまだ早いぜ手前ェら、
これから最低あとふたつは世界を回らなきゃならねえんだからよ!」
「けど、本当に良かった……──姐さん、兄さん!!」
沸き立つ船員たちの視線の先。
船首近くにて、水平線を臨むふたつの人陰。
お気に入りの黒いマントはそのままに。
ほんの少し伸びた背の、頭の上にはやっぱり王冠。
揃いの指輪を嵌めた手で、ばさりと身を翻して。
傍らに佇む“弟”に、ちょっぴり涙ぐんで微笑んだのち、それを拭い去る。
さあ、ここから忙しくなる。
“兄弟”を乗せたら次は“お兄さま”の世界。
それから、“お姉さま”の元へ向かわなくては。
けれど、その前に。
この成功を喜んでくれる、自らの家族たる船員たちへと。
いつかのように、満面の笑顔で。高らかに、告げるのだ。
「ざっとこんなもんですわ~~~~!!」
────物語は、続く!