Eno.518 リリルカ・カラコルカの日記

星と海を往くヴォヤージュ



  ──過日。街酒場の一角。



「──聞いたか、おい。
 巷を騒がせてる海賊団、とうとうウチにもやってきたらしいぜ」


「海賊? ありゃあ義賊だろ。
 いや、本人たちはなんて名乗ってるんだったか……家族団ファミリー? まぁなんだっていいや」


「奴さんら、別に悪事なんて働きやしねえじゃねえか。
 未踏の島を開拓するだの、魔物の住み着いた洞窟を通れるようにするだの……やってることは慈善事業だぜ」


「この前は、隣国への海路に出る水神竜リヴァイアサンを銛で仕留めちまったらしいぜ。
 眉唾モンだけどよ、そんな銛があるなら、そりゃあもう伝説の銛・・・・だな」


「船長もこのご時世に、銃じゃなくて弓を使ってるんだろ。
 恐ろしい腕前らしいが、ヒトにゃ絶対向けねえってんだから、まぁ安心だぜ」


「それにしても大したもんだよな。
 そこそこの人数だってのに、やたらと横の結束が強ぇんだと。
 なんでも船長と副船長は姉弟だって話だ」


「そいつは結構なことで。
 それで奴さんらは、いつまでここに滞在すんだい」


「おう、それがよ。
 なんでも明朝、“別の世界”に発つんだと」


「はぁ~?」





  ──いつかの空。どこかの海。



 一隻の船が往く。
 絢爛たる装飾は、船長の趣味だ。
 然れどきっちりと実用性を兼ね備えた船体は、
 度重なる冒険により、熟練の風格を醸し出す。

 甲板上で、船員たちが声を張り上げる。


「面舵いっぱい!
 ……さぁ、姐さんと兄さんの悲願を達成する日だ!
 手前ェら、しくじるんじゃあねえぞ!」

「合点だぁ!!
 進路よし、宜候ようそろォ!
 ……よう兄弟、例の旗はキッチリと船の天辺に掲げたんだろうな!」

「バッチリですとも!
 もうボロボロだってのに、保存魔法プロテクションまで掛けて大事にしてんだから。
 それも全部、今日という日のためですもんね!」


「そういうこった!
 さぁ、道しるべシーグラスもピカピカ光ってらぁ。
 兄さんの計算が間違ってなきゃあ、じきに“世界の壁”をぶち抜くぜ!
 野郎ども、気合を入れろぉ!」


 応、と声が揃い、船が加速する。
 波はざあざあと音を立て、空が微かに明滅し──

 ──ぐん、と引き込まれるような感触。
 異なる風と潮の匂い。
 晴れ渡った空は、“渡航”の成功を告げていた。


「成功だぁ! ここが“ヒノモト”か!
 でも喜ぶのはまだ早いぜ手前ェら、
 これから最低あとふたつは世界を回らなきゃならねえんだからよ!」



「けど、本当に良かった……──姐さん、兄さん!!」



 沸き立つ船員たちの視線の先。
 船首近くにて、水平線を臨むふたつの人陰。

 お気に入りの黒いマントはそのままに。
 ほんの少し伸びた背の、頭の上にはやっぱり王冠。
 揃いの指輪を嵌めた手で、ばさりと身を翻して。

 傍らに佇む“弟”に、ちょっぴり涙ぐんで微笑んだのち、それを拭い去る。
 さあ、ここから忙しくなる。
 “兄弟”を乗せたら次は“お兄さま”の世界。
 それから、“お姉さま”の元へ向かわなくては。

 けれど、その前に。
 この成功を喜んでくれる、自らの家族たる船員たちへと。
 いつかのように、満面の笑顔で。高らかに、告げるのだ。





  「ざっとこんなもんですわ~~~~!!」





           ────物語は、続く!