Eno.44 雨守の日記

おわり

家も畑も人も、全てが土に押し流された村の跡地。
一心に穴を掘る人影があった。

百を両手両足の指ほど越えた程度の数、かつて家があった場所に、その家族と同じだけ。そのすべてにかつてその村の住人であった遺骸が納められると、今度は土をかぶせていく。深く厚く、もう何者にも侵されないよう。

「……待たせてしまってごめんね、皆。」
「どうか安らかに」

残る仕事は2つ。村のはずれ、同じように深く掘られた2つの穴。
ひとつへ、あの島から持ち帰った包。幼子の遺骨の入ったそれを納め、他の村人と同じように土を被せた。
もうひとつへ、まずは持ち帰った荷物。飴や、香りたつ魚料理や、朽ちた船で見つけた菓子。それから皆で無事島を出るための装備とを入れると、軽く土をかける。

「料理にこんなことしたら、あなたは怒るかな」
「だけどどうしても、皆にも分けてあげたくて。」

小さく苦笑し許しを乞うと、村を見渡した。
手を合わせ、目を閉じる。

愛した村の皆が、島で出会った人魚の姫が。どうかまた家族と巡り逢えるようにと祈る。

最後に残った、崩れかけた社を見るそれの姿は、社と同じに崩れかけているようだった。

「——ありがとう、」

すべてを運んでくれたそりごと、社を穴へ放り込む。

穴を埋める人影はもう、どこにもなかった。