そのあと、の、はなし
……
…………
………………
──海の声が聞こえないっていってんだろ、なあ!!!!!
彼は、島から、陸へと帰ってきている。
海を渡り、海から帰った。
陸に足を踏み込んで、少し伸びをして。
楽しかった、と言うよりは。
不思議な体験をした、と目を伏せて回想した。
港はいつも賑やかで。
異世界から来た船も、全く、受け入れて、それが去るのを見送った。
後の喧騒は、人の声が飛び交っている。
いつもの世界に、戻ってきた。
都合のいいことに、その港は一度も足を踏み入れたことのない土地で、だから、辺りを見回せば、商いの雰囲気ある方へと足を踏み出す。
この時、拾ったかわった石は鞄の底に入れてしまっていた。
そのあと、無くしたと騒ぐのだけど、見つからなくて諦めるのは、別の話。
彼はまた、進む。
海底に連れていってもらうのは、やめた。
人の手で叶えるのでは、ひょうしぬけだった。
自分の手で叶えてこその、それだった。
海の妖精たち。
足が魚であることから、見かけた人々はそれを人魚と呼ぶ。
他のどの妖精たちより、自由気ままで、神から託された役目を放棄し。
海底奥深く、人間がたどり着けないところに、国を作った愚か者たち。
自由気ままに遊び尽くし。
時折人を歌声でたぶらかし。
遊んで、ぽいと放り投げる。
“神のおわす場所”に、誰よりも早く帰ったものたち。
………
ああ。
調べれば調べるほど。
「ろくでなしだ」
◇
だからさあ、聞こえねえんだって、海の声。
全然聞こえねえんだよ?ああ?なんだ?聞こえねえよ。そんなもん。
その毎日は変わらず、研究はどこまでも進められていく。
島を訪れたことがすっかり昔になり、ああ、あれは泡沫の夢だったのではないかと。
基本的に、現実に生きる彼だったのだ。
忘れ去ってしまうほどに。
彼の毎日は充実していた。
否、充実しているように見えた。
そんなことはなかった。
彼は年をとっていく。
歳を取ればとるほど、後に引けなくなり。
同時に、時間の浪費を嘆いていた。
…
怒りは、いつか燃え尽きるのだ。
彼は世界を知る。
彼はいつか、大人になる。
大人になった、なんて思っていない。
夢追う人は愚者である。
彼は成果を出せなかった。
彼は成果を出せていなかった。
何十年の時の蓄積があろうと。
なんだ海の中に奥深く潜ろうと。
鱗を持つ魚の人の姿は、どこにもいない。
朽ちた王国だけが、嘲笑うようにそこに生きた痕跡を残している。
ああ。
ああ。
何度も何度も失望をしている。
何度学んだも、時間の浪費を嘆いている。
海中で拾ったものを、商人に高値で買い取ってもらう。
青年の時から何一つ変わっていないじゃないか!
ときおり、研究録を誰かに見せようと思った。
けれども、権威も、地位も、繋がりもない、ただの素人の文など見向きもされないことだろうと、誰にも見せなかった。
こんなものは空想だと。
恥の煮凝りは、ただ、手元にずっと重ねられている。
無駄が目の前に現れて、破り捨てたくても。
まだ、諦めきれなかった。
いつまでも執着をしている。
夢はいつか諦めるもので。
それは夢ですらないのに。
執着の泥沼に、溺れていた。
◆
聞こえねえ。
ああ、聞こえねえ、聞こえねえ、聞こえねえ。
海なんかに呼ばれてねえ。
俺は、人でしかない。
──けれども、何百回目のダイブのとき。
奥底でまた、彼らの暮らした、残り物を見た時。
ぷっつり、と。
──海底で笑っていた。
ガバガバと口の中に海水が入って。
気泡が空へと上がっていく。
苦しいことは何もなくて。
ただただ、馬鹿馬鹿しさだけが残っていた。
有り体に言えば、おかしくなってしまった。
いつだって、変になるのは一瞬で、タイミングなんてわかりはしない。
ただ、それが跳ねたのには、一応の理由があって。
この土地が、最後の土地だとしめす置き手紙が、わざとらしく残されていたからだ。
自分が最後の海の妖精で違いはない。
にんげんども、ごくろうだった。
私たちはこの世界につくづく愛想が尽きた。
それでは、さようなら。
もう神秘を追い求めるな。
夢から覚めなさい。
──泡沫。
泡沫の、夢。
泡は、弾けて。
笑い声は、誰にも聞こえず。
ただ、不快な、かばごぼ、と、苦しむ音がするだけだった。
苦痛も叫べまい。
何も叫べまい。
自分のこれまでを、肯定できなかっただけ。
苦しくなんてないのにね。
◇
その先の男のことは、誰も知らない。
燃え尽きたものは、はいとなり、廃人となる。
あちこちの海に現れて、人魚を探す男は、結構な有名人だったが。
もう、現れることはなかった。
もし、その男にそっくりな人を見かけても、きっとただの、中年にしか見えまい。
生きているのかもしれないし、死んだ煮凝りかもしれない。
──もしみかけたなら、流転の大陸で。
どうぞ、お会いしましょう。
…………
………………
──海の声が聞こえないっていってんだろ、なあ!!!!!
彼は、島から、陸へと帰ってきている。
海を渡り、海から帰った。
陸に足を踏み込んで、少し伸びをして。
楽しかった、と言うよりは。
不思議な体験をした、と目を伏せて回想した。
港はいつも賑やかで。
異世界から来た船も、全く、受け入れて、それが去るのを見送った。
後の喧騒は、人の声が飛び交っている。
いつもの世界に、戻ってきた。
都合のいいことに、その港は一度も足を踏み入れたことのない土地で、だから、辺りを見回せば、商いの雰囲気ある方へと足を踏み出す。
この時、拾ったかわった石は鞄の底に入れてしまっていた。
そのあと、無くしたと騒ぐのだけど、見つからなくて諦めるのは、別の話。
彼はまた、進む。
海底に連れていってもらうのは、やめた。
人の手で叶えるのでは、ひょうしぬけだった。
自分の手で叶えてこその、それだった。
海の妖精たち。
足が魚であることから、見かけた人々はそれを人魚と呼ぶ。
他のどの妖精たちより、自由気ままで、神から託された役目を放棄し。
海底奥深く、人間がたどり着けないところに、国を作った愚か者たち。
自由気ままに遊び尽くし。
時折人を歌声でたぶらかし。
遊んで、ぽいと放り投げる。
“神のおわす場所”に、誰よりも早く帰ったものたち。
………
ああ。
調べれば調べるほど。
「ろくでなしだ」
◇
だからさあ、聞こえねえんだって、海の声。
全然聞こえねえんだよ?ああ?なんだ?聞こえねえよ。そんなもん。
その毎日は変わらず、研究はどこまでも進められていく。
島を訪れたことがすっかり昔になり、ああ、あれは泡沫の夢だったのではないかと。
基本的に、現実に生きる彼だったのだ。
忘れ去ってしまうほどに。
彼の毎日は充実していた。
否、充実しているように見えた。
そんなことはなかった。
彼は年をとっていく。
歳を取ればとるほど、後に引けなくなり。
同時に、時間の浪費を嘆いていた。
…
怒りは、いつか燃え尽きるのだ。
彼は世界を知る。
彼はいつか、大人になる。
大人になった、なんて思っていない。
夢追う人は愚者である。
彼は成果を出せなかった。
彼は成果を出せていなかった。
何十年の時の蓄積があろうと。
なんだ海の中に奥深く潜ろうと。
鱗を持つ魚の人の姿は、どこにもいない。
朽ちた王国だけが、嘲笑うようにそこに生きた痕跡を残している。
ああ。
ああ。
何度も何度も失望をしている。
何度学んだも、時間の浪費を嘆いている。
海中で拾ったものを、商人に高値で買い取ってもらう。
青年の時から何一つ変わっていないじゃないか!
ときおり、研究録を誰かに見せようと思った。
けれども、権威も、地位も、繋がりもない、ただの素人の文など見向きもされないことだろうと、誰にも見せなかった。
こんなものは空想だと。
恥の煮凝りは、ただ、手元にずっと重ねられている。
無駄が目の前に現れて、破り捨てたくても。
まだ、諦めきれなかった。
いつまでも執着をしている。
夢はいつか諦めるもので。
それは夢ですらないのに。
執着の泥沼に、溺れていた。
◆
聞こえねえ。
ああ、聞こえねえ、聞こえねえ、聞こえねえ。
海なんかに呼ばれてねえ。
俺は、人でしかない。
──けれども、何百回目のダイブのとき。
奥底でまた、彼らの暮らした、残り物を見た時。
ぷっつり、と。
──海底で笑っていた。
ガバガバと口の中に海水が入って。
気泡が空へと上がっていく。
苦しいことは何もなくて。
ただただ、馬鹿馬鹿しさだけが残っていた。
有り体に言えば、おかしくなってしまった。
いつだって、変になるのは一瞬で、タイミングなんてわかりはしない。
ただ、それが跳ねたのには、一応の理由があって。
この土地が、最後の土地だとしめす置き手紙が、わざとらしく残されていたからだ。
自分が最後の海の妖精で違いはない。
にんげんども、ごくろうだった。
私たちはこの世界につくづく愛想が尽きた。
それでは、さようなら。
もう神秘を追い求めるな。
夢から覚めなさい。
──泡沫。
泡沫の、夢。
泡は、弾けて。
笑い声は、誰にも聞こえず。
ただ、不快な、かばごぼ、と、苦しむ音がするだけだった。
苦痛も叫べまい。
何も叫べまい。
自分のこれまでを、肯定できなかっただけ。
苦しくなんてないのにね。
◇
その先の男のことは、誰も知らない。
燃え尽きたものは、はいとなり、廃人となる。
あちこちの海に現れて、人魚を探す男は、結構な有名人だったが。
もう、現れることはなかった。
もし、その男にそっくりな人を見かけても、きっとただの、中年にしか見えまい。
生きているのかもしれないし、死んだ煮凝りかもしれない。
──もしみかけたなら、流転の大陸で。
どうぞ、お会いしましょう。