Eno.998 《蛇神様》ノイの日記

蛇の独白

 大変な目に遭ったが。
 手痛い思いはしたが。

 生き延び切ってみれば、悪い事ばかりでもない、一週間だったかもしれぬ。
 特に異世界の存在を認知できた事は、我にとっては大きな収穫だろう。
 今まで如何に狭い場所せかいで生きていたのか、閉鎖的な場所せかいで生きていたのか、改めて思い知った。
 ただでさえ、元の世界も実は広かったのに、これではまるで無限大だな。
 もうこの世界に遭難するのは御遠慮願いたいが……まぁ、もし再びそうなってもその時はその時だな。




 我の身の上話をした時を思い返す。
 話の流れで、異世界の漂着者たちに語った時を。






 善い神様だ、と言われた。

 善なる者が常日頃、受け取っているであろうコト
 よもや、かつて大魔王に据えられていた我が受け取るは思わなかったな。

 ……少し、こそばゆい。
 だが、悪い気はしない。
 気持ちが温かくなる、コトだ。

 そういえば結局、我と共に流れ着いていたであろう鍋や、奇跡的に無事だった軽食はそのままであったな。
 鍋は……金貨や銀杯、宝石やネックレスと共に売り払おうか。
 値打ちは碌に付かぬだろうが、二束三文程度にはなるだろう……多分……恐らく……きっと……。
 軽食の方は帰ってから食おうか。どうせこれから、またいくらでも食えるだろうし。
 ラム酒のお供にも丁度良さそうだ。今度から神酒みき以外にも、と頼んでみるか?

 未だ身体を預けたままの、足つきのそりを見やる。
 元の世界へ戻っても、これだけは無くさぬようにしたい。
 きっとこれがあれば、今回の出来事をいつでも思い出せるはずだから。
 何なら『ひと繋ぎの架け橋』を呼び付けて、これに乗った我を引っ張らせてやろうか。

 あの漂着船でもうひとつ、こっそり持ってきた大砲を見やる。
 錆び付いているので、帰ったら綺麗にしてやろう。
 これで花火を打ち上げれば、村の存在を証明できるな。
 ……別にいつでも撃ちたいわけではない。断じてないぞ。

 離島で見つけた奇妙な花を見やる。
 結局この一輪以外は見つけられなかったな。
 もしかしたら、珍しい花なのかもしれぬ。
 枯れさせぬようにするべきだろうか?

 図らずとも、土産物をたくさん持って帰る事になりそうだ。


 皆と過ごした非日常が終わりを迎えつつある。
 彼ら、彼女らとの別れの時が、迫りつつある。

 明日あすからはまた、いつも通りにちじょうに戻るのだろう。
 今まで知らなかった、新しい事を知る毎日を送るのだろう。


 何故なら我は――






 こうして今も、生きているのだからな。




『いつかまた、メグりアえるコトをネガおうぞ』





 今度はきっと、この世界ここではないどこかで。




【ノイのシマナガサレ ~ Fin.】