Eno.167 ピスティッペー

遭難……だと?!

非常に困ったことになった。
どうやら私は遭難してしまったようだ。

昨日は祭祀にも参加せずずっと身体を鍛えていて、
疲労で気絶したところまでは覚えている。

しかし、そこからどうやってこの場所まで来ることになったのか……

推測はできる。
私はおそらく、意識がないまま奴隷商人に捕まり、船に載せられたのだろう。
そしてその船が難破し、この島にたどり着いた、というわけだ。

……正直なところ、かなり参っている。

明日はエイレーヌの息子を預かる約束をしていたし、
明後日からは麦の収穫が始まる予定だから、
農奴の監督をしに郊外へ行く準備も進めねばならなかったのに!

麦の収穫が無事に進んでいることを祈りつつ、
ここからの脱出を目指すしかあるまい。

ただ、幸いなことに私は一人で遭難したわけではなかった。

まず最初に出会ったのは、長身で飄々とした雰囲気のレイモンド殿。
銃という、私の知らない武器の使い手らしい。

次に、筋肉はあまり感じない体躯だが、身のこなしの軽いリンカ殿。
チェーンソーという、これまた聞いたことのない武器の使い手のようだ。

最後に、体格も小柄で気迫もそれほど感じないのに、泰然とした自信を感じるニコル殿。
今のところサポート役を務めてくれているが、もしかしたら何らかの武力を持っているかもしれない。


3人とも珍妙な恰好をしている……、
というか蛮人服ズボンをはいているので、ギリシャ人ではない。

しかし自立を貴ぶ雰囲気があるため、奴隷身分ではあるまい。
おそらく遠い国の自由民だろう。

7日後に来るという助けを信じて、彼らと協力して生き延びるしかない。

私は名誉あるスパルタ人として、するべきことがある。
絶対に生きてスパルタに戻り、己の義務を果たすのだ!