Eno.356 舟渡しのスティラムス

【第1章】見知らぬ島・幻想の者達

かつて生きていてこの様な出来事があったであろうか…

吾輩は都の発展させる役割の一環として
都から離れた地にある海辺を訪れていた。
ふと海を眺めていると、不思議に揺らめく光が視界に映った。
吸い込まれるように、導かれるように。
気が付いたら吾輩はその光を追っていた。
…筈だった。

波の音。揺らぐ水面の音。
耳にも、頭にも馴染んだ音が聞こえる中、目にした光景は…
御伽噺・神話で見た様な容姿をした者達が居る島だった。

…否、この者達はこの島に以前から居た者達では無かった様だ。
どうやらこの者達は皆…遭難者として、
多々なる異国の地よりこの地へと遭難した様子だった。
どうやら吾輩も“あの光”を追っているうちに遭難してしまったようだ。
…舟渡しとして不甲斐ない事だ…

しかし、こんな事があり得るのだろうか。
ふと手元にあった瓶詰めの書を見てみれば、
どうやら此処はいずれ沈む可能性がある絶海の孤島との事らしい…
やはり吾輩は遭難したのであろうか。
ともあれ、今は先駆者か…はたまたかつての住民か…
この著者が書き残したと思われる文を信じる他あるまい。

まだ気持ちが整理しきれない事実はある。
しかしこのまま戸惑い続ける訳にもいかぬであろう。
吾輩は同じくこの地へ来た者達と協力し、
出来る事に手を伸ばしていきながらこの地で過ごしていく事にした。
先程の書によればこの地には船が通る事があるとの事。
それまでの信望であろう。

遭難者達は様々な者がいる。
この者達と行動を共にしていくうちに、
不思議と気持ちが落ち着いてきた所はある。
友好的な者も多く、どうにかこの地で過ごしていく事が出来そうだ。