Eno.181 潮彩のリューカ

野生に還りしもの

わたしとリヴィラナの、旅の道中。

「――気を付けて! 野生のヒュマモンよ!」

わたしたちは四足の肉食獣型のヒュマモンと対峙する。
テイマーを持たない野生のヒュマモンを見るのは、その時が初めてだった。
肉食獣の鋭くぎらつく瞳が、目が合ったわたしを射止めている。

野生のヒュマモンは危険だ。わたしは小さい頃からそのように教わっている。
テイマーのいるヒュマモンとは違って、野生の個体はとても凶暴で人間や他のヒュマモンを襲うことがある。
わたしは気を引き締めて、技の指示の構えをとった。


なぜヒュマモンが野生化し、人間に対して獰猛に振る舞うのかは、よくわからない。
一説には、テイマーの元から逃げ出したヒュマモンらしい。
野生化した個体の中にはテイマーを殺したものもいるとか、不穏な話さえ聞く。

テイマーの中には野生ヒュマモンをバトルで弱らせてから捕獲したり、交渉することで『リテイム』する人もいるらしいけれど……。
リテイムした野生個体の多くは、ヒュマモンテイマー協会から貰った個体よりも育成が難しいという。
そもそも複数のヒュマモンを強く育てるのは、強さが絆の深さに比例することが多いヒュマモンの性質上、とても困難な道のりなのだ。

ただ、野生のヒュマモンの多くはレベル2~3と、その能力は高水準だ。
彼らを手懐けることさえできれば、最強への道はぐっと近づくのだろうけど。
わたしには、リヴィラナさえいれば十分だ。


「████! 行くわよ!」

――わたしはすうっ、と息を吸って。いつもの得意技の名を叫ぶ。
大量の泡を激流と共に吹き付ける、水の技『アクアブレス』を。

肉食獣型の野生ヒュマモンが飛び掛かってきたタイミングぴったりでそれは炸裂し、見事に返り討ちにした。
わたしは大喜びしたけど、しばらくするとなんだか罪悪感でいっぱいになった。
……リヴィラナは、あまり嬉しくはなさそうだったから。
わたしはごめんね、と言ってその肉食獣を、他の誰かに襲われなさそうな場所に運んで休ませてやることにした。

あの野生のヒュマモンの瞳に宿っていた、強烈な憎悪。
わたしはその理由と意味を考えつつ、再びリヴィラナと歩き出した。