Eno.320 妖精王オベロン

RE:Another0.『夏の夜の夢とネクロの花嫁』

愛の島の出来事から、幾年幾月。



白亜の城。水晶<氷>に包まれたその部屋で、王とその番は手を取り、踊る。
その様子はまるで、人形師と操り人形のように。





「相変わらず、固いねえティターニア。
ほら、ずぅっと寝ているからだよ。たまにはこうして、身体を動かさないと」





『        』



「ああ、無人島は楽しかったよ。人間と遊んで、協力して暮らして。
ま、何人か人間じゃないのが混じっていたけどね!」






「自由の身となった少女と語らったり」
「深夜に有罪のラーメンを一緒に食べたり」
「我が子の知り合いと会って話したり」
「生意気なクソガキと喧嘩したり」

「頑張り屋さんで怖がりな少女と愛について話したり」
「愛する我が子達を置いて来た母に助けてもらったり」
「人間にはあんなにおっぱ…デカい子がいるなんて、神秘だね!びっくりしちゃった」




「ああ、そうだ。その中にね、人間に擬態して用心棒を生業にしている竜がいたんだ。君が昔、倒したような大きな竜さ!ま、その姿は見てないんだけど。鱗を見せてくれたからね、何となく大きいかなってさ」






「そいつ、オレが大好きだ~って愛の告白をしてきたんだよ。仕方がないから、友達になってやったんだ。いつかあいつの金が無くなった時にでも、用心棒として雇ってやるかな」







『        』





「…嬉しそう?…ああ、ああそうだよ。あの人形の持ち主。
…ああ~…クソ。恥ずかしいことまでいろいろと思い出しちゃった。
あーあー!この話はおしまい!」








『        』




「ああ…この金の指輪かい?良いだろう?美しき魔女に貰ったんだ」








『        』





「…ふふ、嫉妬かい?物静かな君がそんな顔するなんてね。あの魔女もやるじゃないか。
…その顔も可愛いよ」





物謂わぬ口唇に息を吹き込んで。




「君に嫉妬してほしくてね、魔女さんにお願いしちゃった。ごめんね?
大丈夫。オレの伴侶は、ティターニア…君さ。だから、心配しないで。
知っているだろう?オレは、君の為なら砂の海で溺れ死んでも構わない男だよ。
…ふふ、そうだね。いつか魔女さんも君に会いに訪れる。その時は仲良くしてやってくれ」






硬いその身体を抱きしめる。




「…でも、そうだなあ。勝手だって、怒られるかな。少しだけ、夢を見たんだ。
新しい世界を、見に行きたいんだ…。思ってしまったんだ」















「終ぞ冒険に行くことが出来なかった、君の……俺の為に」










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ティターニアを寝かせて、部屋で竜のぬいぐるみをつついて、少しブレイクタイム。
…と、思っていたけど、騒がしい日常はオレを休ませてはくれないらしい。




ばあん!とドアを開く大きな音がする。





「オベロン様、大変だ!新人が引っ越しを嫌がって、家を壊しちゃった!」



「オベロンや~!チェスしよう、チェス!暇なんじゃ~」




「オベロン様!」「オベロン様!」
「オベロン様!」「オベロン様!」




「……………」






「俺は!実家に!!帰らせていただきますッッッ!!」







RE:Another0.『夏の夜の夢とネクロの花嫁』 おわり