Eno.705 小烏丸

部屋を出て、浜。

なぜ、幽霊にも食事が必要なのか。

いつの間にか空白の多い戸棚を見て、頭の中で数を数える。ひいふうみ、よ。食料の備蓄はあと四回分……いつの間に。そういえば最後に市に行ったのはいつだった?
青年​は頭をガシガシと掻いてから立ち上がる。食料の備蓄が切れたということは他にも切れている無くなっている物があるはずだ。
心臓に重石を乗せていくような気分で買うものをメモ用紙にかきなぐり、破き、財布の中に入れる。要らないレシートをゴミ箱に放ってから閉めてポケットに突っ込む。エコバッグは汚れやほつれが無いのを確認して畳み、これは反対のポケットに。その後で表の風音に気づいて、適当な羽織を引っ掛けた。

最後にいっとう大切………かは分からないが無いと困る、中身の入った刀袋を肩に背負って部屋を出る。
空は暗く、風は程々に強い。

青年はずっと分からないままだった。生きる為には食事が必要で、死んだ先のこの地でも食事は必要だった。
己はかつて生者だった。折られて死に、やがてここにやってきた。
ずっと問い続けている事がある。何故、幽霊にも生活が必要なのか。
日が暮れる度に、ずっと​───────


​───────部屋を出て、浜。
「……………………は?」
廻り廻る思考が中断されたのは、これが初めての事だった。