Eno.715 シュリ

再訪

その日は休日だった。
とはいえ仕事に係るものも含めて用向きは様々にあり、
朝は基地と工房に寄り、昼は学内の補講と手続きに追われ、
最後に来週末のレセプションのための荷を受け取りに都内の店を訪れた。

滞りなく全てが終わった頃、アーシャからも定期メンテナンスを終えた旨の連絡があった。
後は夕陽に染まる街を抜け、帝都中央の公邸に戻れば一日が終わる。
そのはずだった。

店内から街路に向かう自動ドアが開いた刹那、目に飛び込んだ光は朝の白。
不意の眩しさから視界が戻れば眼前には海が横たわっていた。
突如照りつける太陽。遅れて届く潮の香。
革靴の足裏に伝わる砂の感触。

脳裏に示される異常な、けれど見覚えのある座標。
人生の中で連続性を欠く、別世界に記された己の足跡。
二度と味わうことのないはずの飴色の思い出。

そこはかつて流された地、絶海領域ジーランティスの孤島だった。