Eno.48 ニライカナイ

3:記録再生

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記録再生……



 森の中の、辺境の村。
 辺境だけど、不便したことはない。

俺はそこの、衛兵の家の息子として育った。

いくら結界があるとはいえ、弱い魔物が通り抜けることはある。
そんな時のために戦うのが、父さんだった。

かっこよくて、ちょっと情けないけど、でも強い。そんな父さんを支える母さんは魔法使い。
回復魔法や結界の知識に富んでいて、みんなから頼られていた。


俺も将来戦えるようになりたくて、父さんや、弓師の隣の兄ちゃんに稽古をつけてもらってた。
怪我をしたら、村唯一の薬師の姉ちゃんに治してもらった。(回復魔法は骨折とかに使うものだし。)


去年子供が産まれた夫婦に赤ちゃんを撫でさせてもらったり、川沿いに住む生意気な兄妹に絡まれつつも一緒におやつ食べたりしてさ。


「何かあったら俺が守る」ってアイツに言った。村長の娘だ。幼なじみの。
そしたらアイツはへにゃっと笑うんだ。……まあ、俺は、その笑顔が好きだったし。


少なくとも、自覚しなくても幸せだと思っていたんだ。ずっと続くと、勘違いしていたんだ








─────村が、燃えている。
いつも暮らし、笑って、ふざけて、真剣になった村が、燃えている。

「な、お、おい、みんな!何処だよ!」

業火に飛び込む。皆を探す。
家族を、友達を、いつもの人々を。

いない、いない、いない、いない……………

俺は衛兵の息子だ。色々教えてもらった。だからそれを生かさなきゃ


いない、いない、いない、いない、いない……………


父さん、母さん、隣の兄ちゃん、薬師の姉ちゃん、

いない、いない、いない、いない、いない………………

去年子供が産まれた夫婦、生意気だけど可愛い川辺の家の兄妹

いない、いない、いない、いない、いない………………………


手遅れ




探しても、誰も、何も見つからない。どころか、ただ惨状と自分が手遅れであったことだけを突きつけられる。
 悲鳴は焼けた木の鳴る音にすり変わっていた。


「……そうだ、アイツなら、まだ、きっと」

 脳裏に浮かぶ顔。
 せめて、アイツ………あの子だけでも助けられないかと、村長の家に走る。

 あの子は魔法が得意だ。精霊とも仲良しだ。それなら、精霊が守ってくれたりしてまだ生きてるかもしれない!


 走る。走った。走ったんだ。間に合わないのに。



 だってそこには、暴走し炎の巨人と化したあの子だったものが蹲っていたのだから。

その後、俺は駆けつけたレギン隊長達に助けられた。
生きていたのは、俺だけだったらしい。



俺は、誰一人として助けられなかったんだ


















揺らめく業火の中、足音を聞いた、気がする




記録終了