Eno.305 清女谷 三佐雄

雨音が消えた

たぶん、死んだように寝てた気がする。
全然すっきりはしねえ。
言いようのねえだるさと吐き気は、
少しは楽になったか。
熱出たりしてねえよな、これ。

……何かやたらと必死だったな俺。
俺もともと雨大好きだし、
こんだけ備えりゃ余裕だと思ってたが、
大自然って恐ろしいよ森野君。
これが日常生活なら『たかが雨』だぜ?

今回は、そう……皆の身体がこれ以上冷えないように
起きてるメンバーでお湯作って、
一人ひとり体温確かめて、配って、それだけだが、
それだけのことでも、俺は真っ先に俺の……
演劇部の可愛い後輩たちに手を差し伸べていた。

そのことを意識した瞬間、
したくもねえ想像をしていた。

もしこれが、ただ暖をとるんじゃなくて、
全員の命が天秤にかけられるような、
取り返しのつかねえ『選択』を迫られてたとしたら
俺はやはり真っ先に、君たちに手を伸ばしちまう気がする。

お湯はあっちいんだが、寒気は増すばかりだった。
まあほら、そんな状況になったら
俺が『選べる』ような立場にあるとは限らねえけどな、はは。
まだ混乱してんだろ私。俺、もっと寝ろよ。
卵が先か鶏が先か、メンタルにくるのは
そもそも身体が不調だからって話だろうぜ。

全員揃って帰る。
俺たちならできるんだろ。

できるよな。