Eno.431 ユドハ

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ペンを取る。
書き置き用の、皺の寄った紙を睨む。

文字を書くのは苦手だ。
文字だけじゃなくて、言葉が関わることは、大体苦手だ。
喋ったり、話したりすることも。

極寒の世界。
ずっと雨が降る場所。

そんな所は、私が居た地には……私が知る限りでは……無かった、と思う。

そんな所から来た者たちに、私の拙い言葉が通じるとは思えない。



いつか闘技者たちの噂で聞いたことがある。

世界と、言語の壁が低い海。
それが、私の住む世界と近い場所にある、とかいう話だ。



「ノラは魔の海とか言ってたけど……」

「まあ」「平気だろ」