Eno.571 春日アセイ

所感

この島に流れ着き3日といったところだろうか。
私のみでは決してこの苦境は乗り越えられなかったろう。他に漂流した者たちが居たからこそだ。

まずは、知者たるアスター殿。響きの聞き知らぬ名だった故、最初こそ鬼畜の者共かとも思ったが。
そのような杞憂を吹き飛ばすほど、我々のために動いてくれている。
どうやら、他の世界、というものがあるらしく、我々晶笨国とは異なる世界より来たらしい。
そも、他の者にも言えることのようだが。
世界を渡り歩き続け、もう10年も元の世界へは帰ることが出来ていないとのことだ。
自らの正気を信ずるな、とも言っていたが……こうまで他者のことを考えられる者が、狂っていることなどあろうはずもない。

次に、蝋色。少年で、皆が最初砂浜に集まっていた頃には、一人遠巻きにこちらを眺めていた。
実によく働いてくれる。働いてくれるのはよいことだ。
だが、子供にしては、生存を知り過ぎている。
その言動、一挙手一投足に過酷な生活をした者の仕草がにじみ出ている。
親がいるかと問うたところ、そのような物を知りもしないような返答を受けた。
どうしたものか。私のようなものが心配することでもないのかもしれんが。

そして、浅岡くん。快活な少女だが、彼女もかなりの苦労をしているらしい。
これまでの知識にはないところではあるが、どうやら「世界間での争い」というのがあり、彼女の世界はそれに負けたのだそうだ。
元学生、と語っていたことが強く記憶に残っている。学生という立場まで奪われたのだろう。
我が国が、そのような立場の人間を生まないと断言できるだろうか?
民衆の一人として、私を苛むような象徴……彼女にそのような意識はないだろうし、私の幻想でしかないが。
……そういえば、超能力というのもあるのだったか?世界は広い……いや、数が多いと言った方が実態に即しているか。

小烏丸君と梶原君については、まだ分からないことも多い。
小烏丸君は随分と刃物の扱いに慣れているようだ。
少々ではあるが、欠けた刃であそこまでの作業をしてみせるのだ。只者ではあるまい。
梶原君は……何と言おう、私が見ている範囲では、普通の少女だ。
他の者たちがそれなりに重い背景を見せるのに対し、純真無垢が過ぎる。
いずれにせよ、元の場所に返してやらねばなるまい。

もう三日、三日か。満潮になるまで、どれほどの余裕があるものか。
日々の暮らしに足りぬも多い。これから、どうなるものか。