Eno.280 超散布意思

Day 3 am 10:00

そもそもの話。

鳥散布種子を構成する大群おおぜいのなまえのない鳥たちには過去の記憶というものがあった。
これは鳥散布種子がいきものの行動を真似る上で不自然な綻びが生じないようにと用意捏造された参考資料である。

なまじ鳥の脳みそを模した機構に詰め込まれたそれは既におおかたが忘却の半ばにあったりもするのだが。
これらにはその元手となる記憶が存在した。

元の記憶の持ち主は今のかれらとは縁も所縁もない、名前も種族もあるまったくの別鳥なのだが。

その記憶が囁くのだ。


そろそろ北に渡る時期なんじゃない?


それはかつての記憶の持ち主渡り鳥の本能に根差した問い掛けであった。

それは小さなささやきであったが、幾度となく全体に染み渡るように繰り返された。


もしかしたら擬似的な生命の危機というエラーに晒された防衛本能かもしれないそれは、
鳥散布種子という概念の骨子そのものを揺るがせようとしていた。