Eno.16 ミオソティス

【5 勿忘草は、愛が】

 
 いつもみたいに無茶をした。
 僕が傷付いてれば良い、
 帰ったところでどうせ死ぬのだからと。
 何故、と言われた。だから。

「……感情を、
 ぶち撒けてやったんだ」



 知ってる、僕は綺麗な心の持ち主じゃないこと。
 僕の奥底には、醜い化け物が住んでること。
 でも、言ってしまった、尋ねてしまった。
 そうすることで、安心を得たかったから。

『──悲しんで、くれますか?』



 僕は、愛が欲しかったんだ。

 あぁ、実に身勝手な問い掛けだったよ。
 分かってるんだよ、そんなこと。

  ◇

 ニライに、本気で怒られて。
 周りのみんなから、言葉を掛けられて。
 心の闇が、完全に晴れた訳じゃない、でも。

「……生きようって、思えた」



『ミオソティスに死んでほしくない』

 真っ直ぐな瞳を、忘れることはないだろう。
 生きていても良い理由をくれた君を、
 僕の枯れた心に水をくれた君を──。

「……あは、は。
 僕……生きていて良いんだ」



 身勝手な愛で大切な花を傷付けたのに?
 暴走の果てにお父様を殺したのに?
 みんなに大きな迷惑を掛けたのに?

 そんなに真っ直ぐな瞳でそんなこと言われたら、
 固めていたはずの決意は、
 灰になって消えたんだ。

  ◇

 居場所がない僕。
 ネムレスが、自分のところへ
 連れてっても良いよと言ってくれた。

 死ななきゃならない理由は、
 もうなくなっていた。

「……後でみんなに、謝らなきゃ」



 昨日、掛けた迷惑は大きいけれど。
 許してくれない人もいるかも
 知れないけれど。

 それでも、それでも、謝らせて。

  ◇

 鮮やかな花を手に、
 色々と試行錯誤している。
 島が沈むまでに、何か、出来ないかな。