Eno.206 エンティティとフィン

お風呂上がりの 楽しみと言えば

「ティティ! おせなか、ながしっこするの、まかせてください!
 んと…まずは、よこになって、だらだら、してくださいっ」

「何処から訂正すれば良いのか……
 おそらく、入浴とマッサージが混ざっていますね?」


ぽかぽかのお風呂の前で、濡れタオルを準備する子供へ、でっかいのは心配の目線を向けた。
清潔にした布で身体を拭くのは、発想としては間違っていないだけに、
「背中を流す」やら「地面に寝そべる」やら、微妙に混入した異物がかえって目立つ。
ついでに、薄着の子供が蒸気の中で突っ立っているのも、逆に身体を冷やしそうで心配になった。

「それよりも、まずは君が、ちゃんと温まってください」
「はぁーい」


タオルをスタンバイしていた子供は、促されると素直に湯船に浸かる。
一緒にタオルもお湯に浸けて絞っているが、彼女の力ではびちょびちょのままだ。

「大丈夫ですか? タオルは私の方で絞りますよ。
 入浴も意外と体力を使いますから、君も温まりながらゆっくりしてください」

「ありがとー! つぎはティティも、いっしょにぽかぽか、したいです」

「気持ちはありがたいのですが……
 私の体積で入るには……もう温泉を掘るしかないのでは……?」


色んなものが流れ着く島ではあるが、流石に源泉は湧いていそうにない。
そんな話をしながら、受け取ったタオルを絞って表皮を拭く。
水を吸わない金属めいた表皮は、毛皮などと違って手入れが簡単で、
表面積が大きくても拭き終わるのにさして時間は掛からない……

……掛からなかった、はずなのだが……

「てぃてぃ…くらくら、します…」

「クラクラ?
 ……もしや、のぼせたんですか!? この短時間で!?」


10分ほどしか経っていないはずだが、何故か子供はフラフラになっていた。
湯冷めしないかと心配していたところ、逆にのぼせたことに驚きつつ、とりあえず湯船から引き上げる。
もしや水温が高すぎたのでは、と触腕を浸してみるが、特に熱すぎることもなく。

「体力のなさを、まだ侮っていたようです……
 ひとまず、風にあたりながら、水を飲んで休みましょうか」

「おみず…つめたいの、ほしいです…」

「そうですね。常温よりも冷やしたほうが、湯上がりには美味しいでしょうし。
 ……確か、離島に冷たい花がありましたから、飲食物を冷やせる設備が作れるかもしれません」

「わ…アイスさんも、できます?」

「アイスですか? それは厳し……
 ……いえ、牛乳っぽい木の実や、砂糖もありますから、できそうな気も……」

「ともあれ、作るには時間も素材もかかると思います。
 君が元気になった後で、散策をしながら考えてみましょう」

「えへへ…たのしみ、ですっ」