Eno.562 ナナシ

8.僕にできること

一瞬あの世界と同じような空をみた。
流石にみんなもここに流れ着いた時に受け取った手紙に書かれていた

 一週間ほどで島ごと沈む

ことを思い出したことだろうね。

備えられることはしておこうと考えながら2日目はすぎて、美味しそうな香りとともに3日目の朝?を迎えた。
美味しそうな香りの正体は、庶民食に関する文献で読んだ、味で闘いあうと書かれるほど作り手毎にそれぞれの味があると言われる[ラーメン]だった。
ここの場合、鶏がらと猪骨だろう。ウサギでも作れそうな気はするけど

 この一杯が、みんなを勇気付けたことは確かだった。目隠れの青年は調理と製菓に目覚め、いつも手が震えている貴族さんの陣頭指揮力は切れをまして、それぞれのできることに専念できる環境は整った。

昼過ぎぐらいのことだった。
岩場で食糧と金属片を探しにいっていた何名かが、怪我をして帰ってきた。経験とは恐ろしいモノだ、使えそうな布を煮沸消毒し助けを求めているだろう人の容態を流れるように見ていた。

 ここに流れ着く前は、ある組織の医者兼義肢研究者として装具の再整備や、義肢の適合検査といった治療行為を繰り返していた。なにも変わろうとしない捨ててきたあの世界の日常。

 天気の概念すらない場所からきた僕にはわからない、あの暗い空が何を示唆しているのかは。