Eno.181 潮彩のリューカ

新しい家族

わたしが世界大会で願いを叶えた、その結果。
わたしは雫が耳のようにくっついた丸っこい幼体ヒュマモン――『メルル』になってしまった。
それはリヴィラナやリヴィエールが進化する前の、最初の姿だった。

生まれ変わったばかりのわたしを前に皆は何が起こったのかわからず、ぼんやりとした様子だった。
世界大会の若きチャンピオンが、突如として会場から姿を消したのだから。

場の混乱が収まらないうちに、事態はさらに混沌になった。
突如、巨大な二足のドラゴン型ヒュマモンが空から舞い降りて、世界大会の会場へと乱入する。

「あれは……『バハムラゴ』!?」「こわいよー!!」
「おのれ、のこのこと現れおって!」「急げ、奴を迎え撃て!!」

空から突然現れた脅威に対し、観客席はパニックになりだした。

他の大会の選手のヒュマモンや、警備ヒュマモンたちの応戦空しく、
わたしはバハムラゴと呼ばれたドラゴンに攫われて、空へと連れていかれた。

―――
――


「――気が付いたようだな」


わたしは、無機質な雰囲気の部屋で目を覚ました。
見上げてみると、さっきのドラゴンが腕を組んで直立している。

「いきなり君をここに誘拐したことは詫びよう。
 私はバハムラゴ、まことの名は阿良田 仁悟あらた じんごという。NUMANSニューマンズのリーダーだ」

バハムラゴこと――アラタさんはいかにも偉そうなオーラを放っていたが、同時にわたしへの敬意を感じた。

『NUMANS』とは――
『ヒュマモンこそが新時代の人類』だと主張し、今の"ヒュマモン共生社会"の仕組みを作り替えんとするグループを指す。
まぁ……身も蓋もない言い方をしてしまえば、そういった思想を持ったヒュマモンたちを中心に構成されたテロリスト集団だ。
破壊や脅迫、時には死傷者や自爆をも厭わない数々のテロ行為で、悪名を轟かせている。

「今は一時的に思い出せなくなっているが、君はかつて、世界一のヒュマモンテイマーだった。
 リヴィエールというヒュマモンを従えた、素晴らしく若きテイマーだ」

「世界大会で優勝し、君の願いは叶った。
 だが君は自分の母親、リューナと入れ替わる形でヒュマモンとなってしまった」

「君にとってはこの上ない不幸だったが――同時に選ばれたのだ。
 新たな社会を築く、素晴らしき新人類の一員としてね」

「歓迎しよう。ようこそ『NUMANS』へ」


当時のわたしは記憶がなかったとはいえ、何だか『NUMANS』に対して怖い感じはしなかった。
アラタさんはあたかも父親代わりかのように振る舞ってくれたからだ。
人間だった頃に望んだ夢とは違う結果になったけど、ヒュマモンだった母さんと同じくらい、理想の家族ができた。