Eno.297 ハイウェイマン

"D"idier 2

(前回の無題が"D"idier 1となります)


イニシャルがDでのらりくらりと過ごしてちゃいけない。そう気付いてからは家で、村で、畑で、峠で、マシな将来につながる何かを探していた。

そんなある日、最寄りの街で領主様の軍が集まって、出発されるという情報が入り、
見物半分、買い手が増えてる町に売り物を持って行くのが半分、ぐらいの気持ちで
日の出前から村を出て、結構な人数でぞろぞろと街へと向かっていった。



広場はそう言った人達でごった返しており、メインの通りのあちこちには各地の領主軍が百人規模で集まっていた。
大勢集まっている事と、具足を着込んでいる事で村の大人達よりはるかに大きく見えた。

まだ汚れていない、金属の鎧兜は朝日を反射して輝き、子供の心を虜にするのは十二分。

その中でも、肩が銀色に塗られている馬上の兵にひときわ目が行った。
本人の結構近くで、同行している大人に聞く。

『あの人はどんな人なの?』

[銀騎士って言って、庶民でありながら遍歴を行った人だけがなれるんだ。貴族だと肩の所には紋章がついてるからね。]

『遍歴?』

[んー……詳しい事は……]

≪各地を回って見分を広めたり、旅先で困りごとを解決したりすることだよ。≫

気さくにも本人が話しかけてくれた。
出発を待っている間、相当暇だったのかも知れない。

どういう所を回ったのか、どこが気に入ったか、自分ぐらいの歳の頃は何をしていたか……ここまで生きてきた中で一番わくわくしながら親切な騎士さんを質問攻めにをしたのを覚えている。
そして前の方の部隊が動き出して、話の終わり際に。

『僕、ディディエって言うんです。騎士さんは?』

≪ディラン。D-Y-L-A-Nだ。≫

平民出身ならまず間違いなく、自分と同じ四男という事。
村に留まっているDとは、比べようとすら思わないほどに彼の姿は輝いて見えた。

今思えば、こんな風に庶民に憧れを植え付けるのも、役目の一環なんだろうな。