Eno.26 アルセ・K・ディアス

面倒だ

存在維持の為に絶対に食料と水が必要な事が、暑さでバテる今の状態が、実体化を解けずに何時もより消費が激しい事が。
けれど本当は当たり前の事だった。まだ人間を止めてから2年半程であり、つい最近まで食わなきゃ飢えるし、飲まなきゃ渇く。暑さ寒さの度が過ぎれば体調は崩すし、そもそも肉体があったのだから実体を無くす事なんて出来るはずもない。

膨大な魔力に少しの呪力、そして一欠片の魂で作られた身体に元の身体から引っ張り出して突っ込んだ人格、こうなると肉体も生命力も無いから生きているとは言えない。
今の自分では変わらず睡眠は必要だが、食事と水はエネルギーになりこそすれど必須ではない、美味い物は好きだから仮にエネルギーにならなくなろうと食事を止める気は無いが、それはそれとして今の俺はそうなってしまっている。普段は人間の振りをして過ごしているからタイミングを選ぶ必要はあれど、本来の姿となれば気温どころか周囲の環境なんて選ぶ必要が無い。そもそも肉体が無いから感染症を心配する必要だって無かった。

そんな生活をしていればやはり精神的に人との乖離は徐々に大きくなっていたのだろう、そもそも今挙げた所以外も人間と異なる点は幾つもあるのだし。完全では無いとはいえ人間である事はこんなにも面倒だったのか、けれど懐かしくてこの島から早く帰りたい事は変わらないが、この点に関してだけは出来るだけ長く続いて欲しい気もする。

今の自分も完全に人間に戻った訳では無いから普通の人間と違う点はまだ幾つもある。けれど何時もより幾らか人に近い存在であることが出来るのならば、帰ってからもしばらくはこのままであって欲しい。だが流石に燃費が悪すぎて疲労も激しくなるからそこも普通の人間並みになって欲しいな。