Eno.112 【空繋ぐ機装魔導師】七曜

第三章【それから】

 マスターは一命を取り留めたが、記憶を失っていた
 書き置きを残して病院へ運んだ後、逃げるように元の拠点へと帰った

 廃病院を改装したと言う母さんの拠点に、私も住む事になった

 そうして、一週間が経った

 マスターの言ってた通り、母さんは優しくてしっかりしてたから
 生活に関しては苦じゃないどころか充実していた
 ……外にはあまり出してもらえなかったけど

「ただいま。買ってきたよ」
 渡された袋には店で買ったと思われる焼きたてのパンが入ってた

「ちゃんと食べろよ」
 母さんはそう言って、相変わらず虚ろな瞳で私を見ている
 洗い流したつもりなんだろうけど、ほんのり血の匂いがしているし
 ご飯はいつも私の分しか用意してないし
 でも不思議と恐怖心は感じず、それが私の日常だと思うようになっていた

 母さんの事も少しずつわかるようになった
 盗賊や悪人を憎んでて、時折血の匂いがするのはそのせいって事
 味覚が無い事、そのせいでご飯を食べたがらない事
 最近はそれでも食べるようにしてたけど
 マスターの一件から完全に受け付けなくなった事
 それを私に悟られないようにしている事

「……静空はこのパンが好きだね」

 私の名前を呼ぶ時だけ、声色が優しくなる事