Eno.181 潮彩のリューカ

裏側の世界

わたしが『NUMANSニューマンズ』の一員として、すっかり馴染んだ頃。
アラタさんが、わたしの様子を見に来てくれた。
リーダーとしてのお仕事も忙しいはずなのに、新人のわたしのことも気にかけてくれるなんて。
わたしの父さんとは大違いだ。

「あれからどうだ? 思い出しただろう、本当の自分を」

アラタさんの問いに、わたしは「はい」と答える。

「自分の、"もうひとつの名"は言えるか?」

「わたしは――『リューカ・ドランシア』

それがわたしの、人間としての名前だ。

「元の自分に戻りたいと思ったことは、あるか?」

「……わかりません」


人間としての日々も幸せだったけど、こっちの姿も実は気に入っている。
そもそもこれは、かつての母さんの姿だ。わたしの目には魅力的に映っていたし、どこか憧れてさえいた。

「ヒュマモンを生み出す人間や、何も知らない人間が、憎いと思ったことはあるか?」

「……ええっと」


本気で人間が憎いわけじゃないんだけれど、彼らとはいくつか共感できる不満はあった。

ひとつめ。被検体となる人間へ何も知らせずにヒュマモン化を施して、人間だった頃の情報を社会から抹消すること。
主に対象は"恩赦と引き換えの人体実験"と称して連れてきた刑務所の囚人や、ヒュマモンテイマー申請者の一部、もしくはその近親者だ。
これがヒュマモンテイマーの申請者のうち、約3~4割(地域差はある)が闇に消える現象の正体である。

ふたつめ。口封じの心理プロテクトによって、ヒュマモンたちが自分の正体を伝える手段を取り除かれること。
ヒュマモンによって個人差はあるけれど、迂闊に正体を明かそうとすると、ものすごい頭痛が襲うのだ。

みっつめ。ヒュマモンが人間に反抗したり危害を加えたりするのを防いだり、人間の記憶を完全に思い出せなくする技術が新たに作り出されようとしていること。
後者はある意味楽になれるかもしれないけれど、これだけは絶対に許してはいけないと思った。

よっつめ。以上の真実を知った"不都合な人間"たちも、時にはヒュマモン化の対象になること。
『NUMANS』のメンバーにも、不用意に真実を知ってしまった元人間が多い。
幸運にもこの"粛清"から逃れた人間を『NUMANS』がかくまうこともある。

いつつめ。何も知らない人間たちが、ヒュマモン同士のバトルを主要な娯楽としていること。
これは、かつての自分への嫌悪を含んでいる。

そしてこれより下は、わたしが人間の頃から知っていた話だ。
むっつめ。人間の身勝手さで、捨てられたり虐待されるヒュマモンがいること。
ななつめ。国や地域によるけれど、ヒュマモンを守るため法律が、人間よりも少ないこと。

これらをすべて挙げた後、わたしはこう言った。

「世界を変えるために。わたしに何かできることはありますか?」

「もちろんだ」


アラタさんはそう言って、わたしにある作戦を提案した。