Eno.130 レフ・レテノール

Report.2

ぐるぐる、ぐるぐる。
慣れた手つきで包帯を巻く。職業柄生傷は絶えない方である上今更包帯が増えたところで変わらない、と包帯を巻いたレフは自らの首元のよれた包帯を撫でた。休暇の前の仕事で胴体と泣き別れかけた首だが、そろそろくっついている頃だろう。

嵐の中出歩くものではない、とは承知しつつも時間が惜しい。体力も時間も有限だ。
不幸中の幸いと言うべきだろうか、オベロンと名乗る彼も自分も人ならざる存在だ。彼は飛べるようだし、自分もそう簡単には死なない体だ。最悪島ごと沈んでも何とかならなくもないだろう、多分。

こういうとき、自分が『人間の血を引いていない、吸血鬼ほんもの』であれば。そう思う。

日の当たる世界では生きられない、銀の煌めきの前には敵わない、夜の世界を永遠に近しい時間を生き得るという人の姿をした人ではない怪物。

それが己、レフ・レテノールの父であるらしい。

研究所にはレフと近しい境遇の半吸血鬼も存在する。最も、レフのように吸血鬼じみた力を備え、日光や銀にも耐えうる個体は稀である。

育ての親に等しい研究員たち曰く、レフの父は遠い昔は人間であったらしい。何か切欠があって吸血鬼として夜と暗がりの世界を生きることを選んだのだったとか。あくまで伝聞でしかないが。

君の姓である『レテノール』。美しく鮮やかな蒼の翅を持つ蝶の一種が由来なのだと、『Lepidoptera』にあやかったものなのだと、そう言っていた。

ふと、拠点でふよふよと浮いていた妖精王を思い出す。彼も見事な蝶の翅だった。
それに何となく親近感を覚えるのは身勝手なことだと、そっと首を振る。

雨はまだ上がらないが、何もかもが惜しい。
レフがなることのできない吸血鬼にはない居場所、レフの歩ける場所。そんな日の光の下へ早く行きたかった。