Eno.220 いつか生まれる物語

ふしぎばなし

リソースというものは有限である。
時間、心、余裕、人員、労力、思考。
その全ては有限である。

そして物事には優先順位がある。
今を生きる読者と、投影された影である俺。これ程簡単な優先順位はない。文字を習ったばかりの子供でも分かるだろう。

故にこそ分からない。

確かに最低でも意識を失えば労力という割と最大のリソースを失う。それはそうだ。だからこそ俺は必死こいてパクった荷車ごと帰還した訳だ。
今でもあのまま気絶していたらと思うとぞっとする。約二日分の信頼のおける労力プラスコストが結構かかる荷車に勝手に食ってきたりお弁当にした飲食物の損失????
『商人』達ならこの言葉だけで交渉決裂待ったなしだ。

しかして。誰もそれを責めずに、なにか別の事を言っている気がする。

いやまあ、読者共のやさしさはこれ以上なく染みていて、故にこそその心情的リソースすらももったいないのでほっておいて欲しいのだが、まあ残念ながら心情という物は自由なのでままらない。

ただ優しいだけなら良い。やさしさとは徳だ。余裕とも言える。この極限状態(倉庫が全くそれを感じさせないが)において尊きものだ。
ただまあ……それだけでと言い切るには性善説が過ぎるだろうよ。
そういう物を信じる立場しても加減とかそんなのがある。

もしや勘違いしてるんじゃないだろうか。俺が死んだら余程困る、とか。
そう思わせるくらいに動けてたら良いんだけど、なぁ。どんだけ背伸びしてみても、与えられる時間は同じきりで。だからいち拠点班に過ぎないんだけど。

やっぱ気を付けないと……幻想を抱いてくれてたとしたら、余計に失敗しないようにしないと……ロスなんてもっての他。船作りも始まるんだし、頑張らないと。読者共だけを脱出させなきゃ。
俺、ずっとご愛読して貰って、お前らにとっての英雄、勇者の、その辺りの代表で居たいからさ。

……帽子、前は結構、余ってたし、それで良いよな。うん、そんなことしてる暇なんてさ、ないよ、きっと。