Eno.328 天使グッドラック

いつつめの幸運

俺は幸運じゃなかったんだと思う。

「あなたは世界で最も幸運な人間です!
 厳正なる抽選の結果、
 幸運の天使として神に選ばれました!」

神……プロデューサーに翼とヘイローを貸与され、
天使となったあの時。
俺は高校1年生になりたての春、
これから勉強も部活も、青春を楽しもうって時だった。

天使は人々を導くため、輝き続けることが使命。
学校はやめさせられた。実家から離れた都会の寮暮らし。
幸運を証明するために、俺はカメラの前で運を試す。
いいものは食わせてもらっていた。他の天使とも仲良くはしてた。

だけど、周囲は常に俺に幸運を期待する。
失望されるのが恐ろしかった。どんどん人々の心が離れていくことがわかった。
俺は本当は幸運の天使じゃない、ただの人間だったから。

他の天使はオーディションで選ばれている。
俺たちのことを『外付け天使』って呼んでるやつらがいるって、知ってる。

だから、プロデューサーに言ったんだ。
「天使をやめたい」って。
結果は、やめることはできなかった。
俺は暇を出され、天使の翼と輪を身につけて実家に帰ったんだった。

・・・

あの時と同じ、嵐が来ていた。
だけど、俺はもう強がりだけを持っては行かない。
頼りにできるものが、幸運以外に増えたからだ。