Eno.16 ミオソティス

【9 その手を伸ばせ】


 クライルから話を聞いた。
 彼を囲む現状のこと。
 クライルはファミリーを
 消してしまいたいって言ってたけれど。

「──クライル。
 君は、どうしたいの?」



 逃げても良いじゃないか。
 我儘言っても、自由になっても。
 だから僕は、問い掛けたんだ。

 ……クライルは、自分のいた
 薄汚れた世界なんてどうでもいい、
 そう言ってやりたいことを語ってた。
 他の世界へ渡るのも良いかも知れないって。

 名案が浮かんだ気がした。
 リシアンサスに相談したら、
 良いよって言って貰えた。

「……僕とクライル。
 一緒に、リシアンサスの、世界へ」



 僕もクライルも詰んでた人生だ、
 優しいかみさまのところで、生まれ変わろうよ。

 クライルも僕を助けてくれたから、
 お礼を、したかったんだ。

──その手を伸ばせ。

  ◇

 嵐が来た。
 嵐と共にクライルが拾った書き置きによると、
 嵐の時には不思議な花が咲くのだという話。
 花魔法のフロルの人間としては、勿論、気になる。

 だから僕は嵐の中で、その花を探しに行ったんだ。
 誰に命じられた訳でもなく、
 それは僕が、僕の意思でやりたかったこと。

「……あの、花、を」



 傷だらけになって、辛うじて拾って帰った。
 綺麗な綺麗なその花は、宝物。

 ニライが先回りして、
 同じ花を探していてくれていたらしい。
 僕は自力で見つけられたけれど、
 ニライのその気持ちが、ありがたかった。

『小さくても夢見たことの為にやったことが、
 無駄な徒労に過ぎないってなったら悲しいだろ』


 君の優しさを忘れない。
 ありがとう、ニライ、太陽みたいなともだち。