Eno.16 ミオソティス

【10 閑話 フロルの街の罪と悪】

 
 僕の育ったフロルの街では、
 尊属殺が悪とされる。
 僕はそこでお父様を殺したから、
 死刑を命じられた。

 フロルの魔法はその血脈に宿る。
 フロルの血は兄様が継ぐから、
 罪を犯した僕は殺される。

 僕はそれでも守られていたから、
 賭博とかくすり? とか
 全然知らないんだけれどもね。

 いつか知る日が来るのかな。
 そんなの、知らなくても良いこと?
 まぁ、それも、おいおい……。

  ◇

 フロルの街の外は内戦状態だ。
 大陸国家シエランディア。
 大きな大陸ひとつがそのまま国。

 でももうこの国は何百年も、
 ふたつの派閥で争っているんだって。

 旧くからの血筋を大切にする旧王派、
 新たな王を掲げる新王派。
 数年で玉座はすげ替わり、
 どの王も長くいた試しがない。

 シエランディアの玉座はとうに形骸化しているから、
 民はそれぞれの街で自治を始めた。

 いつか、この穏やかなフロルの街も
 内戦に巻き込まれる日が来るのでしょうか。
 まぁ、もう帰らぬ場所だ、
 考えてみたところで仕方ない。

 国にいるシオンのことは気になる。
 過去の愛と割り切れたら良いのに、
 僕はまだ君のことも、
 殺したお父様のことも忘れられないんだ。

「……おとうさ、ま」



 リシアンサスが、僕にこれから愛をくれるのは知ってる。
 それを僕は、とても嬉しく思ってる。
 でもね、お父様もシオンも消えてくれない。
 全然、過去になってくれないんだ。


「…………愛して、よ」



 あなたにこそ、僕は。