Eno.559 アスター

狂気

あの子が、ユリコがまた怪我をしている。些細な傷だ。
それがなんだと言うんだ?何処であんな怪我を?
また無茶をしたのか?そうではないと願いたい。言って聞かせはしたのだから。
ではやはり不可抗力、事故によるものか。
どうしたのだろう。漂着した船に罠でもあったか?
ああ、自分が見に行かなければ。あの子らの安全を保証しなければ。
そうだ、そもそもなんで、あんな幼い子らが。おかしいじゃないか。 こんな苦難を被るのは私で十分なはずだ。どうせ地獄に落ちるのだから。
頭ではわかっている。こんな場所だから怪我をすることもあるだろうし、
実際多少の無茶はしょうがない状況でもある。当然のこと、仕方ないことだ。
感情と理性に歯止めが効かないのだ。庇護欲が暴走する。ああ、守らなくては。
守らなくては守らなくては守らなくてはああそうだ私が守る、
誰も何も彼らを損なわせてはならない、そんなことは私が許さない、 あの子らは満たされて幸福であるべきなんだその為ならなんだってしてみせようじゃないか
幸い時間はある、何から始めようか、ああ時間が足りない、全てを成すには時間が無い、 だって本当は彼らは昨夜のような穏やかで幸福な時間を過ごしているはずで こんな過酷な環境にいるべきじゃなくて、だから早く帰してやらないといけなくて
その為には船を待つしか、どうして?まだあの子らに苦労をさせなければならない?
どうしてこんな場所に、私はいい、いつもの事だ、だがどうしてあの子達が
あの子らは幸福であるべきだ幸福であるべきなんだそのためなら

殺すしか能のないお前に何が出来る?

── 平静を装って
あの子たちが持ち帰った物で溢れた倉庫の整理や、拠点の整備をして、
何かと理由をつけて、時間を使い果たした。
レイまでもが怪我をしている。
危険地帯に赴くべきは私なのに。お前はいつもそうだ

……疲れた。