"特別になりたい女の子"
学校では、いつもひとり。
友達がいないわけじゃないけど、
常に「つるむ」ような友達は、
一緒にカラオケ行ったりクレープ食べたりしないと出来ないんだって。
塾に行くお金なんてないから、休み時間は勉強をしてる。
放課後はバイトがある。バイトがなければ部の活動も。家のこともしなきゃ。
だから、ひとりでいいの。
お母さんは働きすぎて体を壊してる。
それなのにまだ働いて、あたしを高校にまで行かせてくれた。
あたしは、お母さんのために。
大好きなお母さんに楽をさせてあげるために、
高校を出たら、ちゃんとした企業で働くの。
デザイナーになりたいって言った小さなあたしを、
お母さんは、応援するって言ってくれて……
きっと、今そう言っても応援してくれるんだと思う。
だけどあたしの夢は叶わない。叶うわけがない。
専門学校にも行かずに叶えられるのは、ひとにぎりの天才。
それに強運の持ち主でなければ、無理なことだもの。
だから、あたしは。
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次の文化祭のステージに出してもらえることになった。
部員の何人かは名前を貸してくれているだけで、
実質部員がひとりだけの、あたしの手芸部。
その作品を、発表してもいいって。
体育館のステージで演劇部と軽音部が続けて発表をする。
その間の準備の時間、ほんの少しの時間を、使わせてもらえる。
ステージの前に居る観客は演劇部と軽音部を見たいひとたちだから、
当然あたしに興味がない。
あたしの作品にも、もちろん興味がない。
あたしは、人気者でもなんでもない。
それでも、そんな白けた舞台でも……
あたしにとっては最初で最後の晴れ舞台。
デザイナーの卵「満つ島 彩絵」の、晴れ舞台なの。
今まで作ってきた、あたしオリジナルの洋服、帽子、バッグ。
新作の、かわいらしいけれど少し大人っぽさのあるドレスと……
そして、"特別になりたい女の子"のための、
とっても素敵で、まるでマシュマロみたいにかわいいドレス!
……それを最後にして、あたしは夢を諦める。
卵は孵ることなく地面に落ちて、くしゃりと割れるの。
他でもないあたしが、そうするから。
そうして、あたしは……
就職活動をする、ただの満つ島 彩絵になる。
そういう、予定だった。