Eno.652 クライル

(6)そして今

ボスを手に掛けたあの日から、3年が経つ。

ボスには、ストリートチルドレンだった僕を拾い上げてくれた恩がある。

しかし、それを含めてもあまりにもあまりな仕打ちではないか。

今にしても僕はそう思う。

そして前々からドンのお気に入りだった僕を、ボスは体良く始末するつもりだった事が判り、その時点で僕はボスへの忠誠心も愛想も尽きた。

ドンに抱かれて来いって言ったのは、何処の誰だったっけ?


それはそれとして、その後も大変だった。

組織のトップが急死し、しかも弱体化したとは言え暗殺チームの長まで殺されたとあれば、その潰されかけたメンツを挽回せんとばかりに、僕を絶対に始末しにかかるだろう事は、容易に想像出来た。

組織総出で一匹の虫を始末とは、実に効率の悪い話だが、それだけ組織は体面が重視される。

その度に、僕はゲリラ戦を強いられる。

最初の内はワイヤートリックで、一網打尽もそんなに苦じゃなかった。

ただ、数が多くなってくると話は別。

一人二人殺られれば、普通に後続が警戒をしだす。

そうなると、中々始末が悪い。

そして、普段は中々群れない暗殺チームのメンバーがそこに混ざると、更に旗色が悪くなる。

手の内が知り尽くされているからだ。

正直、ジリ貧と言う他ない。


そんな事を続けて早3年。

いよいよ海に面した崖上の廃墟まで、僕は追い詰められた。

疲労もピークに達していた。

何とか一矢報いようと、物陰から躍り出ようとした。

その瞬間。


僕は瓦礫に足を取られ。

そのまま、崖下の海まで真っ逆さまに落ちていった。


そして、気が付けば。

今いる島だったと言うわけ。


我ながら、よく生きていたものだと思うよ。