Eno.760 ゲイラヘル

不老長寿の完璧生物、スペック倒れで突然の死を迎える

 この美しい生き物はアラストルといい、光の翼と天使の輪を持つ人間っぽい種族です。人間に似ていますが、パッと見以外は全部違うというレベルで別物です。例えば心臓が3つあり、2つまでなら潰されても死にません。
 そして彼らは、アスリートでも2時間かかるフルマラソンの距離も1時間で駆け抜けてしまいます。あのダチョウが42分ですから、ダチョウ並みの速度と持久力を持っていることになります。潜水もお手の物で、10分くらいなら無酸素で行動ができます。

 視力も大変良く、また暗い場所でも色を識別することができます。これによって昼夜を問わず5km先までハッキリと視認することができます。

 ここまでで彼らの優れた身体能力が分かると思いますが、最も優れているのは各種の耐性と免疫力の高さです。
 彼らは大きな肝臓を持ち、あらゆる毒を代謝、分解する工場になっています。テトロドキシンを無効化し、フグを丸ごと食べることができます。薬物やアルコール、放射能への耐性も通常人類の10倍あり、無機、有機問わず、毒に対しては無敵と言っていいでしょう。

 怪我をして血が流れた場合には、血管の栓を閉じて失血を防ぐダメージコントロールまでできます。この栓は逆流防止弁でもあり、遠心力がかかってもへっちゃらです。異常に高い免疫力のお陰で、300年とされる生涯を通して病気になることも殆どありません。

 こうして優れた能力を持つアラストルですが、一つ重大な欠点があります。それは絶望的な燃費の悪さです。

 その代謝は通常人類の3倍とされており、常に何かを口にしなければ生きていけません。最早生きるために食うのではなく、食うために生きていると言っても過言ではありません。天使と呼ばれる上位者が作った人工種族で、彼らに世話をされる前提の生態をしています。
 しかも彼らは飢えに驚くほど弱く、1日放置すれば低血糖で気を失ってしまいます。そのままもう1日過ぎれば永遠に目覚めることなく、どこかへ連れていかれます。そのくせ飢えに鈍感で、何かに熱中して寝食を忘れてしまい、気を失ったところを同じように連れていかれてしまいます。

 その上、彼らの辞書には警戒心という文字はありません。常に光っている上、アホみたいに大声で何か歌ってるので生き残る気概が微塵も感じられません。崖の下を覗き込んで落ちたり、罠に引っ掛かったり、人間を見つけては好奇心から近寄り、そして連れていかれます。しまいには呼びかけに返事をして連れていかれます。カカポに負けず劣らずのアホっぷりです。命の危機に対しても逃げるのではなく暫く硬直してしまい、簡単に連れて行かれます。これでは自慢の身体能力が全く意味がありません。

 アラストルの血肉には寿命を伸ばす効果があるとされており、また非常に美味しいのでよく狙われるのですが、彼らはそれを全く理解していません。このせいで、300年あるはずの寿命を全うするアラストルは一握りです。

 ところで、彼らを作り、そして猫可愛がりしていた天使は人間との戦争で突然姿を消してしまいました。こうなるとアラストルは餓死と人間による狩りで急速に数が減っていきます。1億いたとされる個体数も急速に減っていき、そして僅か数十年で絶滅してしまいました。学名アラストル・エイドス、5000年前に生きた不老長寿の完璧生物はこうして、スペック倒れで突然の死を迎えたのです。